でも――それでも、心の奥にずっと引っかかっているなにかがある。
 リンコに心配をかけてしまったこと。自分の判断が正しくなかったのかという疑念。
 ごめんなさいという思いが、胸いっぱいに広がっていく。

(なんとかなったけど……やっぱりモヤモヤする……)

 そのときだった。

「リュミ!」

 低く、鋭い声が背後から響いた。
 空気が一気に張り詰める。びくっと肩が震え、思わず足が竦む。
 振り返ると、そこに立っていたのは――エルドだった。

「エ、エルドさん……」

 エルドは眉間に深くしわを寄せ、ふだんとはまるで違う、切迫した表情を浮かべていた。そのまま、足早でリュミに近づいてくる。
 そして、なんの前触れもなく、両肩をぐっと掴んできた。

「無事か⁉︎ ケガはしていないか!」

「う、うん。だいじょ――」

「なに考えてるんだ!」

 怒鳴られて、リュミの声が途切れる。
 エルドの瞳は鋭く、まるで怒りの奥に、怒りだけではなく、焦燥と不安が渦巻いているようだった。

「子どもたちと一緒に、魔物の群れに近づいたって聞いたぞ。危険すぎる!」

「魔物って言っても、小さい虫で…………パッロもリンコもいっしょだったし……それに、子どもたちが困ってて……」

「だからって! あんな状況に飛び込むのは無謀だ!」