その瞬間、心臓がひやりと冷たくなるのを感じた。
 森に異変が起きているこのときに、リュミがまたしても危険な場所へ脚を踏み入れてしまったのだ。

 なぜ、どうして、こんなときに。
 焦りが足を速める。胸の中に、不安と苛立ちが入り混じった焦燥が渦巻いていた。

 リュミが子どもたちと一緒に村はずれの広場へ向かった――そう聞かされたとき、ただ遊びに誘われたわけではないと直感した。
 きっと、またなにかに巻き込まれたのだ。いや、自ら飛び込んでいったのだろう。いつものように、誰かのために。

 リュミはいつもそうだ。
 放っておけばいいのに。少しぐらい我慢して、自分を優先してもいいのに。

 それでもリュミは、迷わずに動いてしまう。
 怖さも危険も呑み込んで、目の前の困っている誰かに手を伸ばしてしまう。

「……そんなところが、リュミの強さでもあるんだが」

 理解している。
 けれど――。

「なぜ、もう少し慎重になれないんだ……!」

 吐き捨てるように、言葉を投げる。
 その声には、怒りだけでなく、強い焦燥がにじんでいた。

 リュミになにかあったら。
 想像しうる最悪の事態が、頭の中をぐるぐると渦を巻く。

「ワシが……もっと、ちゃんと見ていれば」

 こんなことにはならなかったかもしれない。
 後悔にも似た感情が喉元まで迫り上がり、エルドは唇を強く噛み締める。

 ただ、今は立ち止まっている暇などない。

「……どうか、無事でいてくれ」

 つぶやきながら、村の方角へと走り続ける。
 胸の中では、不安と苛立ちが、もはや渦ではなく嵐のように荒れ狂っていた。