契約結婚した白虎の姫巫女

「入るぞ」

 あまりの大きさに啞然としていると、伊織がそう言ってきた。そして先に中に入っていくので、慌てて追いかける。
 屋敷の中も凄い。広々とした玄関。高そうな壺や絵画が飾られている。
 何人かの使用人が「お帰りなさいませ。旦那様」と、挨拶をしてきた。
 靴を脱いで長い廊下を歩いていくと、他の使用人が頭を下げてくる。しかし、その違和感にすぐに気づいた。
 きちんと主人である伊織に礼儀を向けているのだが、そこに感情がなかったのだ。
 無表情で目が冷ややか。まるで義務的で尊敬の念はない。距離感すら感じさせられる。
 そして案内されたのは奥にある2つの部屋だった。

「君と妹で分けて使ってくれ。ここでは自由に過ごしてくれても構わない。用事や欲しいものがあったら使用人に頼むといい」
「ありがとうございます。あの……伊織さんの部屋は?」
「俺は渡り廊下を挟んだ離れにある。家で居る時は、ほとんどそこに居る。用がない限りは呼ぶな」

 伊織はそれだけ言うと、渡り廊下に向かって行ってしまった。渡り廊下は結羅と茜の部屋から、すぐ見える距離にあった。
 しかし渡り廊下は3、4メートルぐらいありそうだ。かなり距離感がある。
 どうやら夫婦と言っても別室らしい。契約結婚なので仕方がないことだが。
 結羅は黙って離れていく伊織の後ろ姿を見送っていた。すると茜は不満そうに、
「なんか感じ悪っ」と,言いながら部屋に入っていく。
 結羅も部屋に入って行くと、何十畳もあるような広さの和室だった。床の間と床脇もあって生け花が飾られていた。隣りとは襖仕切られていて、自由に出入りが出来る。