「何だか、つまらないなぁ。飽きちゃったよ」

ヨハンはワザとらしくため息を吐いて見せた。
弟の前には、傷を負ったヴィレームが膝を折り、シャルロットは魔力を使い過ぎて力なく倒れている。その彼女の上にはアトラスが庇う様に折り重なっていた。その側には、ブレソールが浅い息を繰り返しながら壁にもたれ座り込んでいる。
あの後、ブレソールも参戦したが結果は見ての通り、惨敗だった。

ヨハンは怠そうに背伸びをすると、フィオナの方へとゆっくりと歩いて来る。

「フィオ……逃げる、んだっ」

「ヴィレーム様っ」

掠れたヴィレームの声が聞こえた。彼は力を振り絞りヨハンの足にしがみ付くが、簡単に足蹴りされそのまま地面に転がる。その瞬間、ヴィレームは苦しそうに呻き声を上げた。

「たく、しつこいんだよ‼︎死に損ないがっ」

ヨハンが苛々しながら舌打ちをすると、フィオナに向き直り笑みを浮かべる。

「……姉さん、お待たせ。やっと邪魔者がいなくなったよ。……ってあれ、まだいたのか」

「オリフェオ、殿下……フリュイ……」

ギュルッ。

オリフェオは、フィオナを背に庇い、剣を抜いた。それをヨハンへと突きつける。フリュイはフィオナの足に絡みついてきてヨハンを威嚇していた。

「弱い奴等が何匹掛かって来ようが、時間の無駄だよ」

「そうだとしても、お前には借りがある。存分に返せなければ私の気がすまない」

「借り?あぁ、もしかして殿下の身体を拝借した事ですか?ちょっと借りただけなのに、そんな目くじら立てないでよ。心が狭いなぁ」

嘲笑するヨハンに、オリフェオは剣を振り下ろした。

「おっと……。さっきからさ、突然攻撃するのやめてよね。ズルいなぁ」

「卑怯だと言うつもりか?お前の様な不届き者を、真っ当に相手をしてやる程私は出来た人間ではないのでな」

「ふ〜ん。なら……今直ぐ死ぬしかないね!」

バリンッ。

ヨハンが手を一振りすると同時に、剣が粉々に砕け散った。

「っ……まだ、だっ」

オリフェオは懐から護身用と思われるナイフを取り出すと、ヨハンへと体当たりをした。

「っ痛いっな‼︎」

「っ……」

地面に二人共に転がった。不意をつかれたヨハンは頭を地面に強く打ちつけ、直ぐには起き上がれない。オリフェオは、その隙をつき弟に馬乗りになり腕を押さえつけた。そしてナイフを振り上げる。思わずフィオナは手を伸ばしていた。

「っ‼︎」

「ガハッ……」

何故かヨハンではなくオリフェオの方が血を吐くと、ヨハンの上から地面へ転がった。振り翳されたナイフの刃は砂の様にさらさらと風に消えて行く。
代わりにオリフェオの胸や腹部には無数の刃が刺さっていた。彼は顔を歪ませ、痛みに悶えていた……。