『……』

今、死んだ……って……。

フィオナは全身が粟立つ感覚を覚える。改めてオリフェオを見遣ると項垂れ、憔悴しきった顔をしていた。とても冗談を言ってフィオナを揶揄っている様には思えない。

『少し語弊があるな。ニクラスは、殺されていたんだ』

『……っ』

『何時も朝早い彼奴が、私が今朝登院したら教室に姿がなかった。珍しいと思っていたら……図書室で死んでいた。これはまだ一部の人間にしか知らされていない。ニクラスを発見した生徒と、私、教師だけだ。生徒等がパニックにならないようにな』

フィオナは黙って話を聞いていた。かける言葉も見つからないのもあるが、そもそも驚き過ぎて声が出ない。心臓が煩いくらいに、脈打っていた。嫌な感覚がする。

『……心臓が、抜き取られていたんだ』

オリフェオが言うには、友人(ニクラス)に目立った外傷はなかったが、胸元に穴が空いており綺麗に心臓だけが抜き取られていたそうだ。ぞっとした。
口の中が酷く乾き……動悸が止まらない。フィオナは、ゆっくりと息を吐き、気持ちを落ち着かせた。

『そんな大切な事を、私などに話してしまって、宜しいのですか?』

一通り話が終わり、ようやく声が出た。少しだけ震える。

『どうせ、お前は話す相手もいないだろう』

その嫌味な言葉に口元が引き攣る。確かに以前ならそうだったかも知れないが、今は違う。失礼だと、フィオナはムッとするが直ぐにそんな気持ちはなくなった。

虚なその横顔を見て思う。きっと、誰かに聞いて貰いたかったのだろうと……。

『あの……それで、殿下は何故この様な場所へ……』

『教室に戻る気分じゃない……だからと言って帰る気分でもない』

子供の様な物言いに苦笑するが、何となく気持ちは分かる。
どうやらオリフェオは朝から今まで、校内を徘徊していおり、たまたま裏庭に行き着いた様だ。

彼にとってニクラスは余程大切な存在だったのだろう。今彼はニクラスの死を受け止めきれずにいる。謂わば現実逃避の様な状態なのかも知れない。

『で、殿下?何方へ……』

不意に彼は立ち上がる。そして覚束無い足取りで歩いて行ってしまう。フィオナは、ようやく立ち去ってくれた事の安堵感よりも、彼が心配になった。別にフィオナには関係ない事だ……。友人でもなければ、顔を合わせるのも二回目であり、寧ろ以前嫌な思いをさせられた。他人であり、関わりたくない人物だ。

『……』

フィオナは慌ててお弁当の包みを纏めて、立ち上がるとオリフェオの後を追いかけた。



そして今に至る。

オリフェオはあれからずっと宛もなく校内をウロウロとしていた。昼休みは疾うの前に終わっており、結局授業をサボってしまった……。だがこんな状態のオリフェオをほっておく事は出来ない故、致し方がない。

気が付けば図書室の前まで来ていた。立ち入り禁止になっており、入れない様になっているにも関わらずオリフェオは平然と中へ入って行ってしまう。フィオナも慌てて追いかけた。

「どうして、貴方が……」

今はまだ授業中であり、誰もいないと思われたが図書室にはまさかの先客がいた。

「ハンス様……」