3日後の日曜日。8月に突入したので暑さがますます本格的になっている気がする。
「家に来てくれるって言ってたけど…」
9時ごろに遥樹くんたちが車で私の家まで迎えに来てくれると言っていたが、なかなか遥樹くんたちの姿は見当たらない。
ちなみに現在時刻は9時10分。さすがに暑すぎるので家に避難しようと踵を返すと、「澄羽っち―‼」と柚音の明るい声が静かな住宅街に響いた。
「柚音!」
白い車に手を振ると、扉が開いて車の中から女の子が飛び出してきた。
「澄羽さん!」
顔を上げると、そこにはふわふわの髪をポニーテールにまとめた、遥樹くんの妹の夏果ちゃんがいた。白いノースリーブのTシャツにデニムのショートパンツ姿が夏らしい。
「夏果ちゃん!」
車から飛び出してきた夏果ちゃんを全身で受け止めつつ、「よろしくお願いします―」と私は遥樹くんの車に乗り込んだ。
助手席に座る遥樹くんのつむじと彼のお母さんのつむじを交互に眺めていると、「夏果もいるけど大丈夫?」と女の人の声がした。
「あ、全然大歓迎です!」
荷物を膝に乗せ直して笑うと、「それはよかった」と遥樹くんのお母さんが微笑んだ。
長い黒髪を白いシュシュで束ねた遥樹くんのお母さんは長いまつげとシンプルなピンクベージュのリップが印象的な『美人』だ。
おそらく彼女に悪意はないのだろうけど、そのシンプルな装備が人を寄せ付けない鉄壁の守りのように見えてしまうのは、私の考えすぎだろうか。
手持ち無沙汰に視線を紛らわせると、「夏果はだいぶうるさいから覚悟しといた方がいい」と遥樹くんがいつもの不愛想な口調でそう言い放った。
「お兄が静かすぎるからでしょー。私よりうるさい同級生なんか腐るほどいるし」
夏果ちゃんがませた口調でそう言うと、「そういえば澄羽っち、写真撮るって話だったよね?」と柚音が神妙な表情で口をはさんできた。
「今日は午前中海で泳いで、午後からは展望台に行ったりとか花火とかをする予定」
柚音の夏の計画に「写真はちゃんととるよー。まあ素で楽しみます」と言い返す。
大量の荷物の中にまぎれた、ごつごつした黒いカメラバッグを指でなぞっていると「澄羽さん、大荷物だけど何が入ってるんですか?」と、いつのまにかグミを食べていた夏果ちゃんが私の荷物を控えめに指さした。
今私は、水着やタオルが入ったビニールのナップサックに、財布やスマホ、暑さ対策グッズを入れている黒いリュックを背負っている。
さらにごつごつした黒いカメラバッグを肩から斜めに下げているので『大荷物』と言われるのだろう。
「カメラとか、財布とか、水着とか」
無難にそう返答すると、「旅のプロですね」と半笑いでそう言われてしまった。
「夏果、失礼だから」
車のミラーに映る遥樹くんの顔が険しくなる。
「えー。ごめんなさい」と、夏果ちゃんがグミをもちゃもちゃと食べながら素直に謝ってくれたので「いいよー」とまた無難に返答した。
そしてシートに寄りかかり、私は車の振動に身を委ねて目を閉じた。



