「すーみーはー!起きなさい!」

タオルケットにくるまって眠っていると、どたどたと足音を立てながら部屋に入ってきた母親が私のタオルケットをばっと剥いだ。

「えー、今何時―?」

「8時!サラダは作ってあるからパンだけあっためて食べて。あと、洗い物もよろしくね」

眠たい目をこすりながら母親の方に向くと、化粧も終えて髪もまとめてカバンを持った母親がいた。

「…あーい。」

「何よその気の抜けた返事は!もう、行ってくるからね。ちゃんと勉強するのよ!」

母親が去って数秒後、玄関のドアをバタンと閉める音がして、家の中は急に静かになった。

私はタオルケットの中でしばらく丸まったまま、天井の端で少し浮いている壁紙をぼんやり見つめていた。昔はぴったり張り合わせてあったはずなのに。

「…起きるか」

タオルケットを蹴り飛ばして部屋を出て、用を足してからリビングに向かうと「おう澄羽、おはよう」と父親の声が聞こえた。

「おはよー…ふわぁ」

父親がこの時間に家にいるなんて、なんだか変な感じがした。

いつもは、私が目を覚ます前に出ていって、帰ってくるのは日付が変わる頃。顔を合わせるの、何日ぶりだろ。

「パン焼こうか?」

私がキッチンに向かおうとすると、先回りされてしまった。

「お願い。…てかなんでいるの?」

人聞き悪いなぁ、と苦笑しながら父親が「今日は久しぶりに休み。出張がなくなったからな」と説明する。

「そっか。あー暇だな…」

父親が小さい子供のようにオーブントースターの中を眺めているのを横目に、私はアイスカフェラテを作ることにした。

冷蔵庫からラテベースと牛乳を取り出し、お気に入りの水色のタンブラーも食器棚から取り出す。

4:1の割合で牛乳を注いでいると、「うわ、焼きすぎたかも」と父親の声が聞こえてきた。

その声に振り向くと、確かにトースターの中のパンは全体が濃いきつね色になっていた。

「これぐらいでいいよ。」

父親が焼いてくれたパンを皿に乗せ、私はそれをダイニングテーブルに運ぶ。

カウンターに置かれていたサラダとカフェオレもダイニングテーブルに運び、椅子に座る。

小さく手を合わせて、カトラリーケースから箸を手に取った。

サラダの中に入っていたハムを頬張っていると、「澄羽はなんか行きたいところとかないのか?今日は仕事休みだからどこでも連れていくぞ」とテレビを見ながら父親がそう言った。

「んー…別にどこもないんだよね…」

ハムの端っこの部分を口ではがし取りながらもそもそと答えると、「そうか」とだけ短く答えた父親はまたテレビの方に向き直ってしまった。