「もう一回!」
柚音が私の写真を見るなり、ちょっとだけ頬を膨らませながら言う。
私は笑いながらカメラの設定を見直し、最高の一瞬を作る。今度こそ、ピントばっちりで撮ってみせる。
「じゃあ、動かないで。…はい、チーズ」
かしっ。
真夏の陽の光が柚音の髪に天使の輪を作って、入道雲は夏のきらめきを湛えて眩しく煌めいていた。
「おお、これいい感じじゃん」
遥樹くんが後ろから覗き込んで、満足そうにうなずく。
「でしょ?青春補正、かかってるからね」
私が遥樹くんにそう返事と、柚音が得意げに人差し指を立てた。
「補正じゃなくて、モデルの美しさだってば」
その拍子に、さっき柚音が食べていた昆布おにぎりの袋が風に乗ってひらひらと舞い上がり、屋上のフェンスに引っかかった。
「うわっ、ゴミ飛んでった!」
第一発見者は遥樹くんだった。彼が上擦った声を上げて、ようやく私たちはその存在に気が付く。
「ちょ、柚音、それ自分で取ってきてよ!」
柚音の背中を軽くとんっと押すと、彼女は全力で後ろに下がって拒否の意思を示す。
「えー、あたし高いとこ苦手なんだけど!撮影の報酬として、澄羽さんが取ってください!」
「報酬って何⁉そんなん言うなら柚音がやりなさぁーい!」
お互いがお互いの背中を押し合いながらそんなやりとりをしていると、屋上の扉がぎいっと音を立てて開いた。
「おーい、みんな、そろそろ片付けるよー」
先生がコンビニのレジ袋を片手に戻ってきた。手には追加のおにぎりと、なぜかアイスが。
「先生、それ買いすぎじゃないですか?」
遥樹くんが呆れたように言うと、先生は笑いながら答えた。
「いやー、青春には糖分が必要だからね。あと先生おなかすいてるし。」
先生がそんなにノリのいい先生とは思わなくて、3人でこっそり顔を見合わせて笑った。
「澄羽さんの写真、さっきの見たけど、あれはよかったよ。構図も光も、感情が写ってる」
「そうなのかな…」
一眼レフのダイヤルの凸凹を指でなぞっていると、先生は大まじめに頷く。
「うん。コンクール、狙えるよ。…ただし、ピンボケは減点だからね。」
先生がニヤリと笑う。みられてたのか…
「すみません…」
「落ち込んでも何も変わらないでしょう。4人でアイスでも食べるか?」
「「「食べたいです!」」」
私、遥樹くん、柚音の声が重なる。顔を見合わせると、思わずくすっと笑みがこぼれた。
私たちは適当にコンビニのレジ袋の中からアイスを取り出して食べて、先生はおにぎりをかじりながら空を眺める。
――この時間が永遠に続けばいいのに。
屋上に吹き付ける風でなびく髪を片手で押さえながら、私は心の底からそう感じた。



