「人生初の屋上だー!わーいわーい!!」
屋上の銀色の扉を開けるなり、楽器を持ちながらくるくる回って柚音がはしゃぎ始める。
「嬉しいのはわかるけど、おなかすいたしさっと撮ろうぜ」
後ろから聞こえてきた遥樹くんの手元にある銀色の楽器が真夏の陽の光を反射してまぶしくきらめく。
「はーい」
はしゃいでいた柚音がむくれたようにおとなしくなる。
屋上に吹き付けるぬるい風が柚音のスカートとミディアムロングの茶髪を揺らし、そして私のスカートと髪を揺らした。
準備をする柚音と遥樹くんを横目に私は、緑色に塗られた高いフェンスに寄りかかってシャッターボタンに指をかけて入道雲の浮かぶ青空と給水塔を撮影する。
夏の空は目が覚めるほど高くて明るくて、鮮やかな色をしている。
「…よし」
空を撮り終えた私は、カメラを下ろしてファインダー越しに見ていた世界から現実に戻る。
柚音と遥樹くんは、写真撮影の準備を終えたようで、私の方を見てにこっと微笑んだ。
「澄羽っち、準備できたよー」
柚音が笑顔で親指を突き立てる。風に揺れる濃紺のスカートが、空の青に溶かされてしまいそうな雰囲気を醸し出す。
「じゃあ、始めるね」
私はそう小さくつぶやいてカメラを構え直し、銀色のトランペットを持つ遥樹くんと、フルートを抱える柚音の後ろ姿をカメラに収める。オフショットみたいなものだ。
「いいよー!」
柚音の掛け声とともに、2人が楽器を構える。
私はシャッターボタンに指をかけて、かしかしと何度もシャッターを切った。このひと夏の瞬間を切り取る。
ふと、柚音がこちらを見ていたずらっぽくウインクした。
「澄羽っちー、あとであたしのソロ写真も撮って!」
「はいはい。」
わざと呆れたように返事をすると、柚音が「約束ですわよー⁉」とわざとらしいお嬢様言葉で腰に手を当てる。
その横で遥樹くんがこらえきれないと言わんばかりに肩を震わせている。
――未踏の景色は、こんなにも綺麗なんだ。
そう思いながら、私はもう一度シャッターを切った。



