「よし撮れた。次は屋上だね」
                 
カーテンのなびき具合がなんだか納得いかなくて何枚も撮り直していたら、時刻は11時半を回っていた。

「うん。また楽器持っていく?」

柚音が楽器ケースの山を崩して楽器を漁りながらわたしにそう問う。

「うん。せっかくなら違う楽器で撮りたいな」

「俺も手伝う」

遥樹くんが柚音のもとに駆けて行ったので、私は必然的に1人になる。

ポニーテールにした毛先を顔の前に持っていってちりちりといじって遊んでいると、「準備できたよ!」と柚音がいつの間にか教室を出て私たちを手招きした。

必要なもの――水色のノートと一眼レフを持って廊下に出ると、3歩ほど遅れて遥樹くんが廊下に出た。

「柚音さん、走ったら危ないよ」

遥樹くんの後ろから、鍵の銀色のリング部分に指をひっかけてくるくる回して遊びながら、先生がゆっくりついてくる。

「ごめんなさーい!」

柚音がこちらを振り向くと、彼女の顔には窓枠の十字架の影がくっきりと落ちていた。

「楽器落とすなよ」

遥樹くんがあきれたようにそう言うと、「吹奏楽部は楽器を落とさないんですー」と柚音がむくれる。

「それは誠に失礼いたしましたー」

バカ丁寧な口調で遥樹くんが柚音に返事すると、「誠に失礼ですねー」と柚音が遥樹くんの言葉に乗ってきた。

小突き合うような2人のやり取りは、聞いているだけでも思わず笑えてしまう。

笑いをこらえきれずに「ぷっ」と声が出てしまったのを聞きつけて、遥樹くんが「笑うな」とぼそっと言った。

廊下の大きな採光窓から入った陽の光が、私の上靴を強く、まぶしく照らしていた。