Capture your memories of one summer ~ひと夏、思い出を切り取って~

                         
「え、あれ柚音?」

部室のあるフロアまで上がってきた私とすれ違いで階段を下りていったのは柚音だった。

彼女はさっき私が運んだケースよりも縦幅が広い黒革のケースを両手に持っている。

「3人じゃ流石(さすが)に厳しいかと思って。手伝いにきたよ」

「ありがとう、助かる」

私はひと昔前のドラマに出てくるようなトランクくらいのサイズのケースをつかんで、エレベーターの方に向かった。

しかし、楽器の重さで腕がちぎれてしまいそうなほど痛い。

私はエレベーターの前でケースをおろして、肩をぐるぐる回した。

伸びをしようと手を組むと、ちょうどそこでエレベーターが4階に到着した。

何も考えずに楽器ケースをエレベーターにのせ、自分もエレベーターに乗り込んで『閉』ボタンを押そうとボタンを探すと、柚音が大きなケースをごろごろと転がしながらエレベーターホールにやってきた。

「澄羽っち、これも乗せてー。」

柚音が大きなケースをエレベーターにのせる。

「あと何個か行けそう。澄羽っち、エレベーター開けといて!」

私は自分のスペースを開けるために楽器を楽器をどかして、『開』ボタンを押した。

ぱたぱたとエレベーターホールから去っていく柚音と入れ違いで、遥樹くんがさっき柚音が運んできたものよりも一回り小さい、いびつな形のケースをエレベーターにのせた。

遥樹くんが去って、エレベーターホールは静寂に包まれる。

数分後、先生が見慣れない黒い棒を数本持ってエレベーターホールにやってきた。

「先生、それのせますか?」

階段を降りようとした先生の背中を引き留めて、そう問う。

「これは軽いから大丈夫。あまりたくさん乗せると重量制限に引っかかるよ」

私は先生の言葉に甘えて、『閉』ボタンを押した。

静かにエレベーターが下降していく。

その途中で遥樹くんを見かけたけど、彼は私には気づいていないみたいだった。

少したって、『ドアが開きます』という無機質なアナウンスと共にエレベーターの扉が開いた。

私がエレベーターにのっていた大きいケースをずるずる引きずりながら運んでいると、遥樹くんと柚音が旧校舎の方からこちらに向かって並んで歩いてきた。

「これで全部かな。4人で手分けして運ぼう」

エレベーターにのせていた楽器をすべて運び終えると、先生も4階から降りてきて合流できたので、私は楽器の山の中から細長いケースを2つ掴んで写真部の部室の方に向かった。