Capture your memories of one summer ~ひと夏、思い出を切り取って~

                      
「ほこりくさいね…」

旧校舎に入って、私たちが2階に上がると柚音が神妙な面持ちでぽつりと独り言を落とす。

「まあ、掃除してるのはうちの部室だけだし。あ、そんなこと言ってたらもうつくよ」

扉からわずかに漏れている明かりを指さしてから私が部室に入ると、パソコンを操作していた大庭先生が快く迎え入れてくれた。

「おはよう。どこから行きたい?」

とりあえず吹奏楽部の部室に置かれている楽器を回収しに行きたい。

「吹奏楽部の部室開けてほしいです」

私が適当な席に荷物を置きながらそう言うと、「はーい」と白衣のしわをたたいて伸ばしながら先生が立ち上がる。

外で待っていた2人が「どこいくの?」と聞いてきたので「吹奏楽部の部室に楽器を回収しに行くところ」と私は回答した。

「あ、遥樹くん来てもらっていい?」

先生がふと足を止めたので、私は危うくぶつかりそうになってしまった。

「あー、はい。柚音は待ってて」

私と先生、遥樹くんの3人で吹奏楽部の部室に向かうために外に出ると、むわっとした熱気が私たちを迎えた。

「あっつ…」

手の甲で汗をぬぐって、前を歩く先生をふと見上げる。

涼しげな顔をした先生は鍵のリング部分を指に通してくるくる回して遊んでいた。

私たち3人の足音と、先生が持っている鍵がカチャカチャ鳴る音だけが空っぽの校舎に響く。

「開けるよ」

先生が鍵穴に鍵を差し込むと、がちゃっという気持ちいい音とともに部室の扉が開く。

一歩部室に足を踏み入れると、長年の歴史を感じる独特の匂いを感じた。遥樹くんと先生もそれに続く。

その匂いに浸る間もなく、私たちは固めて置かれているという楽器を探す。

「あ、あった。」

私は黒いケースに包まれた楽器の山の中から軽そうなものを2、3個選んで廊下に運び出す。

遥樹くんと先生も加勢して、私たちはものの数分で廊下に大小さまざまなケースを運び出した。

「一気には持てないよね…落としたりしたら怒られちゃいそうだし」

「こんなん階段で運ぶのきつくないか?」

遥樹くんが私の胸元くらいまである大きなケースに肘をのせながらぼそっとそう言う。

「大丈夫。エレベーター使えるから。」

先生が白衣の中を探って、また違う鍵を取り出した。

そして先生はぱたぱたと廊下を走り去っていった。

「何回か往復すれば全部下まで運べるはず。がんばろ!」

私は楽器の山から手っ取り早く細長いケースを両手に2つ持って廊下を歩いた。

その後ろから大きいサイズの四角形の黒いケースを持って遥樹くんがゆっくりやってくる。

「んー…これは私下までなら余裕で運べそうだから遥樹くんエレベーター使って。」

C組とD組の間の中央階段の方に曲がって遥樹くんと別れ、楽器には気をつけながら階段を駆け下りる。

昇降口の方まで下りてエレベーターの方に向かってみると、遥樹くんが持っていた黒いケースがぽつんと置かれていた。

私はその近くに細長いケースを置いて、階段を駆け上がった。