「はぁ、はぁ…」
学校に続く緩やかで長い坂道を私は息を切らしながら登っていた。
1年生の時は途中で自転車から降りて押したりしていたけど、最近ようやく自転車を降りずに学校まで行くことができるようになった。
そのまま駐輪場に向かって奥に自転車を止めて、水色に塗られた階段を駆け上がる。
教師用駐車場につながる坂の横にあるコンクリートの壁に座ると、吹奏楽部の演奏が遠くから聞こえてきた。
私は首から下げていた一眼レフカメラを起動して、校舎にピントを合わせてダイヤルをくるくる回してシャッターボタンに指をかけて押した。
白い校舎と、手前に映る木の葉が液晶に映る。
それを眺めていると、ちゃーっというチェーンがこすれる音がした。
「おはよ、結城。」
反射的に顔を上げると遥樹くんが地面に片足をついて、こちらを見上げていた。
「おはよう。」
「とりあえずチャリ置いてくるからちょっと待ってて」
そういって遥樹くんは駐輪場に向かってしまった。
私がコンクリートの壁から降りてリュックを背負いなおすと、遥樹くんが戻ってきた。
「柚音は?」
私が彼にそう問うと、彼は制服の黒いズボンのポケットから何の躊躇いもなくスマホを取り出した。
「ちょっと、怒られるよ!せめて隠しなよ…」
「柚音に連絡する。」
そう言って画面をタップして、遥樹くんは柚音に電話をかけてしまった。
「もしもし。まだ?結城と俺もう来たけど」
柚音の返事を待ってから、また遥樹くんが口を開く。
「あと10分?まあいっけど。」
少し彼の方に顔を傾けると、わずかに柚音の声が漏れ聞こえてきた。
私が通話を聞きたいと思っているのがばれたのか、遥樹くんがスピーカーホンに切り替える。
『今運転中!あー、青になっちゃった!』
「学校にスマホ持ってくんなよ」
『その言葉そっくり返すわ!てかあたしこのままだと補導されるからバイバイ!』
柚音にぶちっと一方的に電話を切られ、遥樹くんが盛大なため息をついた。
「あと10分くらいだって。ってか暑すぎ」
遥樹くんが黒いリュックから水筒を取り出して、中味をがぶ飲みした。
「暑すぎだよねほんとに…」
私もカバンの中から水筒を取り出し、中に入っている麦茶を少し飲む。
冷たい麦茶が全身に行きわたり、さっきよりも楽になった気がする。
「てか結城、今日髪結んでるんだ」
遥樹くんが私のポニーテールに目を向けてふとそう言った。
「あー…まあ暑いから…」
私が彼から目をそらすと、見慣れた女子生徒が自転車でこちらに走ってきた。
「遥樹、澄羽っち、遅れて、ごめん…」
けたたましいブレーキ音に、思わず肩が跳ねる。
「ごめんねー?あたしの自転車ブレーキかけるときにものすごい音するんだよね」
そう言ってから柚音は駐輪場に自転車を止めて、私たちの方に駆け寄ってきた。
「結城、案内して」
柚音が合流してから、遥樹くんは私にそう言った。



