「柚音ちゃんばいばーい!」

「じゃあな。また明日」

遥樹くんと、彼の妹の夏果さんの見送りで私と柚音は遥樹くんの家から出る。

「ばいばーい!」

柚音がぶんぶん手を振ったので、私は軽く会釈をして帰路に就く。

「たのしかったぁ~」

「ね。勉強は全然できてないけど」

結局あのあと私たちはほとんど勉強せず、おやつを食べながらしゃべっていただけだった。

「人生には開き直りも大事だし!」

柚音の自転車からちちち、とチェーンがこすれる音がする。

「明日何時集合がいいとかある?」

私がそう言うと柚音は「まあ、いつでもいいよ」とうつむき加減で口を濁した。

「9時でいい?旧校舎の方から入れるから明日はそっちから入ろ。正門集合で」

「ああ、うん…」

柚音は確かにこちらを向いているけど、その視線はどこか遠くの空を見つめているように感じた。

コンビニの近くにあるあの歩道橋まで戻ってきた私たちは無言で歩道橋を上がる。

歩道橋の一番高いところに着いたとき、「こっから降りたらどうなるんだろう」と後ろの方からわずかに声が聞こえてきたような気がした。

反射的にそちらに顔を向けると、いつの間にか私よりもずっと後ろにいた柚音がどこかうつろな表情で桃色に暮れ始めた空を眺めている。

夏の生ぬるい風が柚音のミディアムロングの茶髪を揺らしていて、表情はよく見えない。

「え?」

私がそう聞き返しても、「んー?空がきれいだなぁって。」とはぐらかされてしまった。

私はもやもやを残したまま歩道橋を下り、しばらくして柚音と別れた。