柚音に無視されて、置いてけぼりを食らってしまった私は仕方なくゴミ捨て場に戻る。
止められていた自転車のスタンドを起こして柚音が向かった方向とは反対方向に向かって帰路に就くことにした。
ふと空を見上げると、シュークリームのようなぼこぼこの雲が太陽を覆い隠していた。
無心で自転車を漕いでいたら横断歩道の信号に引っかかってしまったので、自転車のブレーキをかけて停車する。
家を出た時のあの生ぬるい風とはまるで違う冷たい風がさーっと通り抜け、私の髪とロングスカートをなびかせる。
青信号に変わったので、キャップをキュッと締めてペダルに強く力を込めて発進する。
しかし私を進ませまいと、冷たい向かい風が暴れる。
「ほんっとに、進まないんですけど…」
ギアを1つ軽くしてシャカシャカ必死に漕いでも、ほとんど進めていない気がする。
どこからか感じる雨のあの独特の匂い。早く帰らないと雨が降ってきてしまいそうだ。
立ち漕ぎして必死に前に進む私の手にぽつっと一滴、何かが落ちた。
「え?」
思わず天を仰ぐと、バケツをひっくり返したような大雨が降りだしてきた。
突如降り出した雨は、あっという間にアスファルトを黒く染め上げ、私の体を濡らしていく。
前髪からぽたぽたしずくが滴り落ち、メガネのレンズは水滴だらけになって一瞬で見えなくなった。
水滴越しに信号の赤い光が目に届いたので、ブレーキをかけて停止する。
毒々しく存在を主張してくる信号から身を守るように瞳を閉じると、真っ黒くなった視界の奥に柚音のよそよそしい後ろ姿がよみがえる。
目の奥がじんわり熱くなって、雨と混ざって頬に涙がこぼれる。
初めてできた碧依以外の友達に冷たくされてしまった。
たかだかそんなことで私の心は涙を流せてしまうほど深くえぐられていることに気づいた。
信号が青になったけど私は涙をぬぐうこともなく、そのまま走り出した。



