Capture your memories of one summer ~ひと夏、思い出を切り取って~

                
「遥樹の家はここ。あたしは日陰で待っとくから澄羽っち行ってらっしゃい」

ゴミ捨て場の日陰に自転車を止めて柚音が手で示した家は、黒い2階建ての一般的な一軒家だった。

白い車がカーポートに止まっており、その横にはチョコレート色の自転車と黒い自転車が止められている。

ローマ字表記で『Segawa』と書かれた銀色の表札の下に控えめにインターホンがある。

私はゴミ捨て場の日陰に自転車を止めて、軽く深呼吸して震える指でインターホンを押した。

「えと、あ、結城です。遥樹くんいますか?」

『いますけど。お(にい)ー!』

小学生ぐらいの女の子の声がインターホンから聞こえる。おそらく遥樹くんの妹だろう。

『なんだよ、うっさいなぁ…』

インターホン越しにわずかに聞こえるのはおそらく遥樹くんの声だろう。

がちゃん、とインターホンを切られた私はカバンの中を漁って財布を取り出した。

「結城?」

遥樹くんはジンベイザメが大きく書かれた黒いTシャツに黒いハーフパンツという格好で外に出てきた。

意外と部屋着可愛いな、と彼のTシャツにプリントされたジンベイザメを見つめていると、聞きなれない女の子の声が聞こえてきた。

「お兄ちゃんの友達ー?てかもしかして、彼女さん?万年ぼっちお兄が?」

先ほどインターホンで応対してくれた、小学生くらいの女の子が暗い色の木目調の扉からにゅっと顔を出す。

その子は茶色がかったふわふわの髪を2つにくくっていた。というか遥樹くん似だな、目元とか特に…と彼女の顔をまじまじと見つめる。

「ちがう、失礼だろ。あと万年ぼっちじゃないから俺。」

遥樹くんが女の子を部屋に押し戻して、外に出てきた。

「えっと…あの、土曜日の200円を返しにきました…」

緊張のあまり、つい敬語になってしまった。

「別に返さなくてもよかったのに」

遥樹くんがさっぱりした黒髪を手で梳きながらこともなげに言う。

「返さないと申し訳ないから返しに来たの。」

薄紫色の折り畳み財布から100円玉を2つ取り出して、遥樹くんに渡す。

「まあ結城がそういうなら。」

彼は私が返した200円をズボンのポケットに押し込み、口を開いた。

「というか、さっきの女の子は誰なの?」

さっき遥樹くんと一緒に出てきたあの女の子がふと気になった私は、遥樹くんにそう問うた。

「妹。夏果(なつか)っていうノンデリな中1の妹。俺の方が年上なのにいっつもあれやれー、これやれー、って言われる。」

ぱっと見は小学生かと思ったけど、どうやら遥樹くんの妹さんは中学生らしい。

おそらく髪型が幼かったのでそう感じたのだろう。

「そうなんだ。夏果さんと遥樹くんさ、今ちょっと見ただけだけど、結構似てるね」

「よく言われる。」

「へぇ…私ひとりっ子だからそういうのよくわかんないな。」

「結城ひとりっ子だったんだ。意外…あっ」

遥樹くんが顔を後ろに向けたので何事かと思って私も遥樹くんと同じ方向を向く。

「ねーえーくそお兄ー、待ちくたびれたーカムバック―」

1階の小窓から夏果さんが顔をのぞかせている。

「兄にクソとか言葉遣いなってないな、クソ夏果。じゃあまた27な、結城。」

「可愛い可愛い妹にクソ―⁉お兄の方がクソだわ!」

きゃんきゃんした夏果さんの声にわざとらしく耳をふさぐ遥樹くんが面白くて、思わず笑みがこぼれた。

夏果さんに言い返しながら遥樹くんが家に戻っていくのと入れ違いで、自転車を押しながら柚音が近づいてきた。

「ちゃんと返せた?」

「うん。」

私がそう返事したら、柚音は自転車にまたがり、返事をせずにそのまま立ち去って行った。

「え?ちょっと!」

柚音、と呼び掛けたけど彼女は返事してくれなかった。

そのかわりに、柚音が着ているオーバーサイズの白いTシャツが攻撃的なほどまぶしく日光を反射してばたばたとはためいていた。