手に何かが震えるような感覚で目を覚ました。
誰かからの電話を受け取ったスマホがぶーっ、ぶーっと震えている。
画面を見ると、『瀬川遥樹』の4文字。私は軽く咳払いをして、画面の上で指を横にスライドした。
『もしもし』
不愛想な声がスピーカーから響く。
「も…もしもし!」
一瞬どもってしまったのをごまかすように私はあえて大きな声を出した。
『うわ、びっくりした。いきなり大声出すなよ…今日部活あった?』
「何で知ってるの?」
水の中に入れた絵筆から絵の具がじんわり滲んでいくように、私の心の中に警戒心が広がる。
動揺を押し隠して、平静を装って遥樹くんに聞く。
『午前中に電話したけど出なかったから、部活かなーって。ストーカーとかじゃないからな』
遥樹くんの言葉を聞いた私は、彼とのトーク画面をタップした。
確かに10時半ごろに不在着信がある。
「ごめんね。」
『部活だし謝ることないだろ。先生から許可取れたか』
「許可はとれたけど…ごめんね」
馬鹿の一つ覚えのように謝ると、『謝られるの嫌いだからもう終わり』とスピーカーから発せられた遥樹くんの声が私の耳に届いた。
「わかった…27日にプール掃除を手伝ってくれるなら屋上とか開けるって。できれば9時から14時半の間で、制服で来てほしいな。」
『濡れるだろ』
若干うんざりしたような声が聞こえてきたので、私はあわてて説明を付け足した。
「濡れないように、プール掃除は最後にしてもらえるだろうし、濡れるのが嫌だったら着替え持ってきてもいいから」
『ならいいか。柚音にも伝えとこうか?』
「おねがい。」
遥樹くんにそう頼んだ時、階下からインターホンの音がした。
「宅配の人来たからまたあさって!」
そう言って私は赤い切断ボタンを押してスマホをベッドに置き、階段を駆け下りた。



