「いつ遊べるー?」
柚音が自転車の鍵を解錠してカバンを自転車のカゴに乗せながら私たちに聞いた。
「俺は塾とかないから基本いつでも」
「私も部活の時とお盆期間以外は基本大丈夫だよ」
自転車のスタンドを上げて、駐輪場を出る。
「おっけー。あとでグループラインで電話しよーね」
あたし家こっちだからー、といって柚音は右に曲がっていった。
「結城」
遥樹くんの声が後ろから聞こえた。
心の中でため息をつく。柚音がいてくれたら…
「家どっち?」
「まっすぐだけど」
「一緒に帰るか」
あまりにもサラッと言われ、私は思わず「へ」と間抜けな声を発してしまった。
「嫌なら1人で帰るけど」
「嫌では、ない」
よく知らないクラスメイトの男子と帰るのは気が乗らなかったが、今後もお世話になる―おそらく私のわがままで振り回してしまうであろう人に冷たい態度をとるのは良くないと思った私は、曖昧な回答をしてしまった。
「なら一緒に」
遥樹くんが自転車に乗ってさっさと先に行ってしまう。
一緒に帰るって言葉はどこに行ったんだか、と私はため息をついて自転車のペダルに足をかけて遥樹くんを追いかけた。
「結城の家、どっち」
私の前から問いかけられた質問に答える。
「三岳小学校のあたり。」
「俺は柚木小学校の辺。柚音も俺と同じ小学校。」
ちなみに私たちの中学校は、三岳小学校と柚木小学校の生徒が1学年を形成しており、遥樹くんと柚音とはは中学で初対面である。
「そうなんだ。小学校の時から仲いいの?」
私が遥樹くんにそう問うと、彼は何も答えてくれなかった。
「遥樹くん?」
私が語気を強めて遥樹くんの方に身を乗り出す。
「そろそろ暗くなるから早く帰らないとだろ」
そう言って遥樹くんが指さした空は桃色に変わり始めていた。
「え?私の話聞いてる?」
そういえばさっき遥樹くんに質問したのに無視されていたので、さっきよりも強い口調で遥樹くんを問い詰める。
「あー聞いてるって。気をつけろよ」
「うん。じゃあね」
私の住む住宅街に近づいてきたので、私は目の前の角を左に曲がって遥樹くんと別れた。
――話題をそらされたもやもやだけを残して。



