「わっかんないなぁ」

私は写真部の部室で、数学のプリントに取り組んでいた。

写真部という名前だが、わが校の写真部はそれらしい活動はあまりしていない。

昨日はカメラの手入れと部室の掃除をしていたが、そういう日は(まれ)であり、たいていは宿題をしたり、本を読んだりと思い思いに写真部ライフ(?)を満喫しているのである。

私は数学のプリントをクリアファイルにしまい、スクールバッグから色鉛筆と水色の表紙のノートを取り出した。

このノートは私が撮りたいものを軽く絵にして、イメージを膨らませるためのノートである。

「うーん…」

ノートの中心に横長の長方形を書いて、その中にシャーペンで大まかに制服姿の男女の後ろ姿を描く。

その背景にはきらめく海。

隣のページにもう1つ長方形を書き足して、その中に談笑する制服姿の男女の姿を大まかに描く。

その背景には入道雲と屋上のフェンス。

ページをめくり、さらに長方形を2つ描き足す。

左側のページにはプールサイドに座ってプールに足を浸している制服姿の男子と、同じくプールサイドに座ってその男子に水をかけている女子の姿を描く。

右側のページには楽器を持って屋上で笑う男女を描く。

さらにページをめくる。左側のページには海に足だけを浸して、楽しそうに笑っている制服姿の男女を描き、右側には教室で真剣な表情で楽器を演奏する2人の女子。

制服ばっかだな、と今日描いた写真の構想に感想を付ける。

でも青春を感じるしいいでしょ、と私はノートをスクールバッグに押し込む。

体を伸ばそうと椅子から立ち上がった瞬間、こんこんとドアがノックされる。

どうせ私に用じゃないでしょ、と無視していたらドアの向こうからくぐもった声が聞こえてきた。

「結城。」

私の名前が呼ばれたので仕方なくドアを開けると、瀬川遥樹が私のスクールバッグについていた白い猫のキーホルダーを持っていた。

「え、っと、ありがとうございます」

緊張のあまり、言葉が詰まってしまった。

それをごまかすように私はキーホルダーをさっと受け取り、さっさとドアを閉めた。