すき、という名前の花

気がつくと、Aは——そこにいた。

冷たい木の床が、じんわりと体温を奪っていく。
ほんのりと、本の匂いが鼻をくすぐる。

世界は、静かだった。
まるで時間ごと、止まってしまったかのように。

Aはゆっくりと目を開けた。
視界に映ったのは、さっきまでいた場所とはまるで違う空間だった。

広さは、先ほどの建物の、ほんの百分の一ほど。
けれど、不思議なことに——部屋の壁は、すべて棚で囲まれていた。
そこにはまた、たくさんの“紙の束”が並んでいる。

ここがどこなのか、Aにはわからない。
何が起きたのかも、まだ上手く理解できない。

けれど——それでも、ひとつだけ、確かなことがあった。

この場所には、“言葉”がある。
それだけは、はっきりと感じられた。