むかしむかしあるところに、一匹のぶたさんがいました。

 ぶたさんは、自分がぶたさんである事がいやでいやで仕方がありませんでした。 自分が好きになれないのに、周りが好きになってくれるはずもなく、ぶたさんはいつもひとりぼっちでした。 ぶたさんはその事をうとましく思いながらも、打開する術を持たず、また、持とうともせず、時間の経過を見送る事しか出来ないでいました。

 ぶたさんはかけっこが大好きでした。 でも、ぶたさんはぶたさんです。 息もすぐに切れてしまうし、才能なんてない事はわかっていました。 でも、ぶたさんがぶたさんのクセに、あんまりにも楽しそうな顔をするものだから、周りの人も、かけっこをするぶたさんには声をかけてくれました。 ぶたさんはそんなちょっとした事に、失神してしまうほどの感激を感じていたのでした。 同時に、もっと早く走れればもっと褒めてもらえるのに、と、自責の念も強めていきました。