○居酒屋 サークルの飲み会会場
座敷席、8人がけくらいのテーブルが並んでいる。
隼斗は女の子に囲まれて、話しかけられている。
それを少し離れた席から見ている透子と友人たち。

友人「あーあ。隼斗、さっそく連れていかれちゃったね」
友人「そりゃそうだよ。隼斗が入ってきた瞬間、目の色変わってたもん。先輩たち」
透子「本人がサークルの雰囲気知りたかったみたいだから、ちょうどいいんじゃないかな……」
透子は苦笑いを浮かべながら、グラスの飲み物を飲む。一年生なので当然ソフトドリンクだ。
透子が顔を上げると、爽香と雄馬が並んで座っているのも視界に入ってしまう。
友人「ていうか隼斗、お酒飲んでる? 大丈夫かな」
友人「あー、そっか。隼斗なんて呼んでるけど先輩だもんね?」
友人「そうそう。一学年上。しかも隼斗留年してるから歳は2個上」
透子「あ、そうなんだ……」
ストレートで大学に入ったが、一年目はほぼ休学状態。去年ギリギリ進級したけど、今年はまだ二年生。
友人「じゃあちゃんと敬語で話した方がいいかな」
友人「大丈夫じゃない?本人あんな感じだし」
透子「私、そろそろ帰ろうかな……」
友人「え? もう!?」
透子「一応顔は出したし……」
友人「隼斗と一緒に帰る約束してないの?」
透子「まさか」
透子、お金を友人に託し、鞄を持って出ていく。
その姿に隼斗が気づき、じっと見つめている。
そしてもう一人、透子を見ていたのは雄馬。隼斗は雄馬の視線にも気づいている。
透子が店を出ようとすると雨がぽつぽつ降り始めたところだった。
空を見上げてため息をつく透子。
透子「傘ないや……」
思わず後ろを振り向く透子。誰もいない。
高校時代の思い出が蘇る。

○回想 高校の昇降口。放課後。
雨が降っているが、傘を持っていないので、ため息をついて空を見上げている透子。
雄馬「透子!」
背後から声をかけられて振り向く透子。
そこには小走りでやってきた雄馬。手には一本の傘。
雄馬「間に合った!傘ないんだろう? 一緒に帰ろう」
透子「え、部活は?」
雄馬「雨だし体育館借りられないから中止。ちょうどよかったよ」
雄馬は傘を広げて、透子の前に出る。
雄馬「一本しかないけど……ほら」
雄馬が傘を持っていない手で透子を手招きする。
おずおずと傘に入る。
二人で話しながら帰る絵。二人とも笑顔で雨露に濡れた花も輝いている。

回想終わり。
透子が振り返っても、もちろんそこに雄馬は現れない。
けれど、別の人影。
透子の驚いた顔。
現れたのは隼斗。
隼斗「よかった。間に合った」
透子「え……?」
隼斗「荷物持って出ていくのが見えたから。俺も帰ろーっと」
隼斗、透子と並んで歩き出す。
透子「え、まだ始まったばっかりなのに?」
隼斗「だって佐倉がいなかったら意味ないもん」
透子「そんな……サークル入りたいって」
隼斗「うん。サークルの雰囲気はなんでもいいんだ。佐倉がいれば」
透子「なんで……」
隼斗「危ないっ」
隼斗、透子の腕を強く引き、自分の胸に引き寄せる。
目の前を勢いよく走っていく車。
その衝撃と抱きしめられた驚きでドキドキと胸の鼓動が高まる透子。
隼斗「あぶないなー。大丈夫?」
透子「だ、大丈夫!ありがとう」
慌てて隼斗から距離を取ろうとする透子。
ただ隼斗が腕を握ったままなので、完全に離れることができない。
透子「南くん……?」
隼斗「俺、わかったんだ。佐倉の好きなひと」
透子「え?」
隼斗と透子の脳裏に同時によぎる、雄馬の顔。
隼斗「でもさ、その人……」
透子「やめて」
隼斗「っ!」
透子「昔のことだから。今はもう好きじゃないの」
透子(だって、もう諦めないといけないんだから)
隼斗、苦しそうな透子の表情を見て、自分も顔を歪める。
しかしぎゅっと拳を握って。
隼斗「ライバルもわかったことだし、俺、本気でいくから」
透子「え?」
驚きで目を見開く透子。そんな透子を真っ直ぐに真剣な表情でみつめる隼斗。