○大学の教室 休み時間
そろそろ授業が始まる、若干ざわめきの残る空間。
ひとりの男子学生が教室に入ってくる。顔はよく見えないが、シンプルな服を着こなし、すらりとした体躯なのが見て取れる。
周囲の学生たちが、遠巻きに「あれって、噂の?」「元アイドルの?」とヒソヒソ話している。
席に座って授業の準備をしている透子は、まわりの動揺に気づいていない。
ふいに隣に人影が現れる。はっと顔をあげる透子。
隼斗「ここ、いい?」※横顔で表情ははっきりと見えない
透子「う、うん」
透子が頷くと
隼斗「サンキュ。佐倉さん」
にこっと笑みを浮かべる隼斗の顔。
その表情に、どくんと透子の胸が高鳴る。
隼斗「先週のノート、ちょっと見せてもらってもいい?」
透子「あ、いいよ」
透子がノートを差し出すと、ぐいっと隼斗が近づいてきて肩が触れ合う。
隼斗「助かる〜。最後ちょっと寝ちゃったんだよね」
と苦笑いしながらノートを写す隼斗を見つめる透子。
隼斗「佐倉さん、字綺麗だね。そういうとこも好き」
透子「ど、どうも……」
透子(まさか、元アイドルの彼と、こんな風に話すようになるなんて――)
○数日前に戻る 大学の教室
友人たちが話しているのを聞いている透子。冴えない表情をしている。
友人「この授業、ハヤトも取ってるらしいよ」
友人「うそ。ラッキー! え、でもこれって普通一年で取らない?」
友人「一年の時はほとんど大学来てないんだって。まだエーテル活動してたし」
友人「あー、そっか。解散前で全国ツアーしてたしね〜」
友人「エーテル好きだったな〜。でも解散してなかったらハヤトと同じ大学に通えることもなかったかもだし……複雑」
友人「あのままだったら、忙しすぎて中退しちゃうんじゃないかって噂だったもんね〜」
透子、友人たちの話を聞き流しながら、ぼんやりと窓の外を見つめる。
透子(いいな。みんな楽しそう。私も楽しい大学生活を送れると思ったのに――)
ため息を吐く透子。
正面を向き直ると、ひと組のカップルが視界に入る。
露出度高めの服を着て綺麗に化粧をした爽香が、隣に座る雄馬にべたべたと触ったり、二人で顔を寄せ合って楽しそうに会話をしている。
透子(私が、あそこに座れると思ってた――)
透子、爽香の場所に自分が座って、雄馬と過ごすところを空想する。
○回想 高校時代
朝、授業の前の時間、制服姿の透子が教室で英単語を覚えている。
雄馬が登校してくる。
雄馬「おはよう、透子」
透子「お、おはよう……!」
雄馬「今日もやってるんだ?偉いな」
透子「服部くんに教わったんだよ。この単語帳全部覚えた方がいいって」
雄馬「そこから絶対出るって、予備校の先生が言ってたから」
透子「私の通ってる塾、そんなこと教えてくれないから助かる。ありがとう〜!」
雄馬「いいって。うちのクラスで同じ大学受けるの、俺たちだけだもんな。透子と一緒に通えたら心強いし」
透子「わ、私も!一緒だと嬉しいから頑張る!」
雄馬「おお。頑張ろうな」
雄馬、そう言って、透子の前に拳を突き出す。おずおずとそのグータッチに答える透子。
雄馬が困っている友人に課題を見せてあげたり、重い荷物をかわりに持ってあげたり、「じゃあ俺やりまーす」と言って委員会を引き受けている姿などを思い浮かべる透子。
回想に被りながら、
透子(服部雄馬くん。明るくて誰にでも優しくて、クラスの中心的存在。
みんな彼のことが大好き。もちろん、私も――。だから大学に受かったときは本当に嬉しかった。これからもっと頑張って、告白しようと思ってたのに――)
○回想 一ヶ月くらい前。春。入学して早々の頃。
雄馬の隣に爽香が立っている。雄馬に呼び止められ、振り返る透子。
透子「雄馬……?」
雄馬「俺たち、付き合うことになったんだ」
透子「え……?」
笑顔の雄馬と、同じく笑顔だがどこか勝ち誇った表情の爽香。
無理やり笑顔を作る透子。
透子「そっか。おめでとう」
雄馬「佐倉には言っておこうと思って。サークルも同じだし」
爽香「隠したってどうせすぐバレちゃうよ」
雄馬「そうかもしれないけど……」
透子「別に隠すことないんじゃない?」
爽香「ほらー佐倉さんもそう言ってるし。フォローしてくれるよね?」
透子「う、うん……」
曖昧に頷く透子。
雄馬は爽香に腕をぐいぐい引っ張られながら立ち去る。
その後ろ姿を見送って、涙を堪える透子。
透子(最悪。待ちに待った大学生活のはずだったのに。今は大学に来るのが、つらい……)
○現在に戻る
隼斗が教室にやってくる。じろじろと様子を窺うクラスメイトたち。
隼斗は迷いなく透子の隣に座った。
隼斗「ここ、いい?」
透子「う、うん」
透子が頷くと
隼斗「サンキュ。佐倉さん」
にこっと笑みを浮かべる隼斗の顔。
その表情に、どくんと透子の胸が高鳴る。
透子(名前。なんで……?)
隼斗「先週のノート、ちょっと見せてもらってもいい?」
透子「あ、いいよ」
透子がノートを差し出すと、ぐいっと隼斗が近づいてきて肩が触れ合う。
隼斗「助かる〜。最後ちょっと寝ちゃったんだよね」
隼斗は顔を上げて悪戯っぽく笑う。
透子がどきどきしていると、にこっと笑って、ノートを写し始める。
透子、テレビ越しに見たことのある、アイドル・ハヤトとしての姿を思い浮かべる。画面の中で歌って踊っている隼斗の姿。解散のニュース。
透子(本当に、本人なんだよね?)
隼斗、借りたノートを差し出しながら、
隼斗「サンキュ。助かった」
透子「いえ……」
おずおずと遠慮がちな透子に対し、隼斗はきょとんと首を傾げる。
隼斗「あれ、佐倉さん、なんか緊張してる?この前はそんなことなかったじゃん」
透子「え?」
透子、隼斗の言葉の意味がわからずきょとんと首を傾げる。
隼斗はその反応が予想外だったのか、わずかに目を見開き
隼斗「あー、そっか。なるほどね」
うんうん、とひとり納得顔。
隼斗「改めて、南隼斗です。昔はアイドルやってたけど今は大学生。佐倉さんと仲良くなりたいんだ。よろしくね」
隼斗が手を握手の形で差し出す。
それを呆然と見つめる透子。
そろそろ授業が始まる、若干ざわめきの残る空間。
ひとりの男子学生が教室に入ってくる。顔はよく見えないが、シンプルな服を着こなし、すらりとした体躯なのが見て取れる。
周囲の学生たちが、遠巻きに「あれって、噂の?」「元アイドルの?」とヒソヒソ話している。
席に座って授業の準備をしている透子は、まわりの動揺に気づいていない。
ふいに隣に人影が現れる。はっと顔をあげる透子。
隼斗「ここ、いい?」※横顔で表情ははっきりと見えない
透子「う、うん」
透子が頷くと
隼斗「サンキュ。佐倉さん」
にこっと笑みを浮かべる隼斗の顔。
その表情に、どくんと透子の胸が高鳴る。
隼斗「先週のノート、ちょっと見せてもらってもいい?」
透子「あ、いいよ」
透子がノートを差し出すと、ぐいっと隼斗が近づいてきて肩が触れ合う。
隼斗「助かる〜。最後ちょっと寝ちゃったんだよね」
と苦笑いしながらノートを写す隼斗を見つめる透子。
隼斗「佐倉さん、字綺麗だね。そういうとこも好き」
透子「ど、どうも……」
透子(まさか、元アイドルの彼と、こんな風に話すようになるなんて――)
○数日前に戻る 大学の教室
友人たちが話しているのを聞いている透子。冴えない表情をしている。
友人「この授業、ハヤトも取ってるらしいよ」
友人「うそ。ラッキー! え、でもこれって普通一年で取らない?」
友人「一年の時はほとんど大学来てないんだって。まだエーテル活動してたし」
友人「あー、そっか。解散前で全国ツアーしてたしね〜」
友人「エーテル好きだったな〜。でも解散してなかったらハヤトと同じ大学に通えることもなかったかもだし……複雑」
友人「あのままだったら、忙しすぎて中退しちゃうんじゃないかって噂だったもんね〜」
透子、友人たちの話を聞き流しながら、ぼんやりと窓の外を見つめる。
透子(いいな。みんな楽しそう。私も楽しい大学生活を送れると思ったのに――)
ため息を吐く透子。
正面を向き直ると、ひと組のカップルが視界に入る。
露出度高めの服を着て綺麗に化粧をした爽香が、隣に座る雄馬にべたべたと触ったり、二人で顔を寄せ合って楽しそうに会話をしている。
透子(私が、あそこに座れると思ってた――)
透子、爽香の場所に自分が座って、雄馬と過ごすところを空想する。
○回想 高校時代
朝、授業の前の時間、制服姿の透子が教室で英単語を覚えている。
雄馬が登校してくる。
雄馬「おはよう、透子」
透子「お、おはよう……!」
雄馬「今日もやってるんだ?偉いな」
透子「服部くんに教わったんだよ。この単語帳全部覚えた方がいいって」
雄馬「そこから絶対出るって、予備校の先生が言ってたから」
透子「私の通ってる塾、そんなこと教えてくれないから助かる。ありがとう〜!」
雄馬「いいって。うちのクラスで同じ大学受けるの、俺たちだけだもんな。透子と一緒に通えたら心強いし」
透子「わ、私も!一緒だと嬉しいから頑張る!」
雄馬「おお。頑張ろうな」
雄馬、そう言って、透子の前に拳を突き出す。おずおずとそのグータッチに答える透子。
雄馬が困っている友人に課題を見せてあげたり、重い荷物をかわりに持ってあげたり、「じゃあ俺やりまーす」と言って委員会を引き受けている姿などを思い浮かべる透子。
回想に被りながら、
透子(服部雄馬くん。明るくて誰にでも優しくて、クラスの中心的存在。
みんな彼のことが大好き。もちろん、私も――。だから大学に受かったときは本当に嬉しかった。これからもっと頑張って、告白しようと思ってたのに――)
○回想 一ヶ月くらい前。春。入学して早々の頃。
雄馬の隣に爽香が立っている。雄馬に呼び止められ、振り返る透子。
透子「雄馬……?」
雄馬「俺たち、付き合うことになったんだ」
透子「え……?」
笑顔の雄馬と、同じく笑顔だがどこか勝ち誇った表情の爽香。
無理やり笑顔を作る透子。
透子「そっか。おめでとう」
雄馬「佐倉には言っておこうと思って。サークルも同じだし」
爽香「隠したってどうせすぐバレちゃうよ」
雄馬「そうかもしれないけど……」
透子「別に隠すことないんじゃない?」
爽香「ほらー佐倉さんもそう言ってるし。フォローしてくれるよね?」
透子「う、うん……」
曖昧に頷く透子。
雄馬は爽香に腕をぐいぐい引っ張られながら立ち去る。
その後ろ姿を見送って、涙を堪える透子。
透子(最悪。待ちに待った大学生活のはずだったのに。今は大学に来るのが、つらい……)
○現在に戻る
隼斗が教室にやってくる。じろじろと様子を窺うクラスメイトたち。
隼斗は迷いなく透子の隣に座った。
隼斗「ここ、いい?」
透子「う、うん」
透子が頷くと
隼斗「サンキュ。佐倉さん」
にこっと笑みを浮かべる隼斗の顔。
その表情に、どくんと透子の胸が高鳴る。
透子(名前。なんで……?)
隼斗「先週のノート、ちょっと見せてもらってもいい?」
透子「あ、いいよ」
透子がノートを差し出すと、ぐいっと隼斗が近づいてきて肩が触れ合う。
隼斗「助かる〜。最後ちょっと寝ちゃったんだよね」
隼斗は顔を上げて悪戯っぽく笑う。
透子がどきどきしていると、にこっと笑って、ノートを写し始める。
透子、テレビ越しに見たことのある、アイドル・ハヤトとしての姿を思い浮かべる。画面の中で歌って踊っている隼斗の姿。解散のニュース。
透子(本当に、本人なんだよね?)
隼斗、借りたノートを差し出しながら、
隼斗「サンキュ。助かった」
透子「いえ……」
おずおずと遠慮がちな透子に対し、隼斗はきょとんと首を傾げる。
隼斗「あれ、佐倉さん、なんか緊張してる?この前はそんなことなかったじゃん」
透子「え?」
透子、隼斗の言葉の意味がわからずきょとんと首を傾げる。
隼斗はその反応が予想外だったのか、わずかに目を見開き
隼斗「あー、そっか。なるほどね」
うんうん、とひとり納得顔。
隼斗「改めて、南隼斗です。昔はアイドルやってたけど今は大学生。佐倉さんと仲良くなりたいんだ。よろしくね」
隼斗が手を握手の形で差し出す。
それを呆然と見つめる透子。



