Bird Cage


「早々変わるものか。それよりもお弁当作ってくれる人ぐらいいないの?人事の何て言ったっけ、斎藤さん?こないだ自慢げにSNS見せてたよ。あんたと食事したって」
「まぁ、なんかぁ流れでぇ」
流れで若い女の子と食事してんじゃないわよ。あんた既婚者――――……

「小鳥遊にも作ってやったりした?」と突如小鳥遊部長の名前を出され、私は顔を歪めた。

「あるわけないでしょ。それこそあの人ベジタリアンぽいし、お昼は野菜ジュース一本で済ませそうなタイプじゃない?」

本当は知ってる。小鳥遊部長、ああ見えて結構肉食なところとか。何年か前夜遅くまで残っていて事務作業に追われていた私に小鳥遊部長はステーキ重を差し入れしてくれた。私のは並だったけれど、彼は大盛。お肉は特注で500gで作ってもらったということも。
でもそれを話さないのは単に面倒だったから。

というのも、同期である鳥飼と小鳥遊部長は犬猿の仲。顔を合わせると何かと言い合いになる。今日だってそう、何かとつけて小鳥遊部長のことを気にしてるんだから。その気にし方がまるで子供そのものでため息が出る。
もちろん部署が一部と二部だから成績争いも絡んでいるのもあるだろうけれど。熱くなるのはもっぱら鳥飼の方で小鳥遊部長はいつも理論攻めの淡々とした口調。

別に小鳥遊部長を庇ったわけではないよ?ただ説明するのが面倒なだけ。こいつに余計な情報流してとバッチリを食らうのはごめんだ。

「あの堅物の所にもう何年居るんだ?疲れるだろ?」と鳥飼は私の肩をもんできた。
「ちょっとやめてよね、セクハラ」ぞんざいに手を振り払うと鳥飼はへらへら笑って手を離す。

「五年だよ、烏丸さんはよくやってくれてる」

突如として背後から声が聞こえてきて、私たちは同じタイミングでビクリ。私たちのベンチのすぐ背後、背中合わせに配置されたベンチに腰かけていた小鳥遊部長はやはりパックの野菜ジュースのストローに口をつけどこか冷めた目で私たちを見ている。

でも―――何故か、助かった??

「噂話は僕本人が居ないところでやってほしいな」
「だってお前がそこにいるなんて気づかなったもん」とまるで子供のような言い訳の鳥飼。

私だって気づかなかった。びっくり―――したぁ。
それでも小鳥遊部長はそれ以外何かを言うわけでもなく、音もなく席を立ち上がり颯爽と行ってしまった。

「なんか、興ざめしたわ、あいつの登場で。相変わらず辛気臭ぇの」と鳥飼も席を立つ。
正直ほっとした。これ以上鳥飼と話すのが面倒だったから。

小鳥遊部長は―――助け船を出してくれたのだろうか。彼の言う通り、私は小鳥遊部長と五年一緒に働いている。当時は同じ営業マンの一人だったけれど小鳥遊部長は『男』と言う理由で出世していった。それに対して怒りは湧かない。だって実際その頃から彼は仕事がバリバリできたから。

それでも”あの頃”は恋に仕事に一生懸命だった。

私は鳥かごの鳥。

一生、飼いならされて、自由に羽ばたくこともできない。

羽根をもがれて飛べない鳥。

でも、自分を哀れとは思わない。
そうしなければやっていけない。

唯一の楽しみは毎週金曜日、決められたホテルで男と密会をすることだけ。
ホテルは決まっている。
毎年五つ星をとっている高級ホテルの一室での密事。


そう―――私だって”女”だ。