朝8:30前後のエレベーターは特に混む。
何故ならこの大手商業施設の殆どの会社の就業時間が9時スタートだからだ。
朝からバッチリメイクの若いOL。流行りの服を着てブランド物のバッグを手にしている子たち。かと思えば家庭で何があったのだろうと想像してしまうぐらいくたびれたサラリーマンたち。二日酔いなのだろうか、顔がかなりくたびれている人。
人間観察は好きだ。
と言うよりも私にとってそれはバードウォッチングのようなもので、いかに珍しい人種を発見できるのか、がこの時間のちょっとした楽しみ。あ、新しい人種発見。半分刈り上げた髪ともう半分はまるでセキセイインコのよう。きっと5階にある最近入ったテナントのデザイン会社のデザイナーだろうか、歳も若い。
と思ったらセキセイインコと目が合った。別に慌てて逸らす必要はないけれど、8機あるうちの1機の最前列に並んでいたら
「烏丸」と声を掛けられた。同じ社の同じフロア、営業第二部の部長、鳥飼 渉だった。
「おはようございます」いつも通りそっけない態度で挨拶をして、エレベーターが開くと同時にまるで人がなだれ込むかのように押し寄せてきて、私は自然鳥飼部長の隣、奥の壁へと押しやられた。セキセイインコとは離れてしまって結局彼がどこに行くのか分からずじまい。
あーあ、今日はついてない。
小さくため息を吐きたくなっていると、隣に並んだ鳥飼部長の小指が私の小指にふと触れ、それがゆっくりとした動作で絡まる。
『何考えてるの?ここは会社よ』とその高い背のこれまた整った顔をねめつけてやったが、効果はなかった。
鳥飼 渉。私と同じ部署ではないが隣の部署の部長で爽やかな甘いマスクとスラリとスタイルの良い高身長。年齢は私と同期入社だから同じで33歳。当然狙っている女子は多い。
こんな所誰かに見られでもしたら。と早々に手を離そうとすると
「わー、待った待った。僕も入ります!」
と一人男性がエレベーターに入り込んできた。
聞き覚えのある声に顔を上げると鳥飼の手はあっさりと離れて行った。助かった。
そしてその男性はほぼ強引に奥へ…私たちの方へ進むと鳥飼と私の間に入り込んだ。そのときちらりと見えた。セキセイインコがやはり5階のパネルを押しているところが。
「小鳥遊部長、おはようございます」
挨拶をすると
「おはよう」とぶっきらぼうで冷たい言葉が返ってきた。
緑色の髪の彼がセキセインコなら小鳥遊部長は鷹だな。だって小鳥って全然感じないし。たかなし、鷹なし。お、いいこと思いついたな私。



