ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする

そんなマジアク課には課長はいない。
責任者は、若き霧島海都(きりしま かいと)チーフ。

顔立ちはキリッ、彫りも深く、背の高さはパパ並み。スーツ越しでもわかる引き締まった体のライン、横顔まで完成されすぎ。
まるで映画から抜け出した古代戦士。

しかも、なぜだろう。初めて見たのに、どこか懐かしい気配をまとっている。腕の太さも、立ち姿も、あの日抱きしめてくれたウィルに重なりそうで、心臓が妙にざわついた。

スクリーンから飛び出してきた人が、同じフロアにいるなんて。ヤバってくらい、心臓に悪い。

最初は完全にアイドル目線。視界に入るたび、胸の奥がドキッ。『あぁ、世の中って不公平』なんて、ひとり勝手にため息ついていた。

そして心の奥で、もしかして、この人……? という小さな予感が芽を出す。



それに、霧島--鬼島チーフって結構モテる。毎年、新人フロントの誰かが告白するっていう都市伝説があるほど。ただし結果は全員、見事に玉砕。理由はあの毒舌。


「顔も性格もタイプじゃない」
「その程度で俺に惚れるって、何の冗談だ?」
「悪いけど、時間の無駄」


氷の刃みたいな一言を真顔で言うから、空気は一瞬で南極。居合わせた私も、心臓がキュッと縮んだ。

挑んだ彼女たちは“勇者”と呼ばれ、その称号を手にする。勇者の称号は年に一度しか手に入らない、超レアもの。



それだけに鬼島チーフはフロントの女子たちから密かに注目されている……はずなのに、
どういうわけか私は別の意味で目をつけられていた。

研修が終わったある日、資料を抱えて廊下を歩いていると、すれ違いざまにわざと肩をぶつけられた。


「あんたみたいなドンくさい子が、なんでマジアク課の霧島チーフのもとで働いてんの? 目障りなんだよ、可愛くもないのに」


吐き捨てるような声。心臓がズキンとした。

返す言葉も見つからず立ちすくんでいると、低い声が廊下に響く。


「おい! 誰に向かって口きいてんだ、おまえ」


振り向くと、資料室から出てきた鬼島チーフが、氷みたいな目でその子たちを一瞥した。


「仕事中に私情持ち込む暇があるなら、二度とここに立つな」


有無を言わせぬ一言に、彼女たちは慌ててその場を去っていった。

助けてくれたんだ……と胸の奥が少し温かくなる。なのにその直後、鬼島チーフは私のほうに視線を戻し、さらっと言い放った。


「おまえもとろいんだよ。ぶつかられる前に避けろ」


せっかくのときめきが、また一瞬で粉々になった。でもその声の低さと響きに、どうしても耳が惹きつけられる。

やっぱり似ている。あの日の、あの人に。



しかし霧島チーフのよさは、顔だけじゃない。仕事が鬼のようにできる。とろい私は配属後早々に目をつけられ、毎日怒声のシャワー。

パレスのスタッフが彼を“鬼島チーフ”と呼ぶ理由が、すぐに理解できた。私のドキドキは、恐怖のビクビクに変わるまで、そう時間はかからなかった。