ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする

薄暗い、大人専用ラウンジの隅。
幸い、宿泊者の多くはビレッジ内のパレードや花火を楽しみに出かけていて、ここには私ひとり。まるで貸し切りのような静けさだった。

ふかふかの椅子に体を沈めると、革張りの匂いとほのかなアルコールの香りが鼻をかすめる。小さく流れるピアノのBGMが、かえって胸を締めつけるようで……。

カウンターの前の大きなガラス窓の向こうには、夜の東京湾が広がっている。
水面に映る街の光がゆらゆら揺れて、まるで涙の粒みたい。

私は、ホイップたっぷりのホットチョコレートをそっと啜った。甘さで気持ちを誤魔化したかったのに、胸の奥のざわめきは消えてくれない。

ふとガラス窓に映った自分の顔。
そこには、一筋の涙を流す私がいた。

今日一日、ピーターズファミリービレッジを思う存分楽しんだはずなのに。
昨日までは全然平気だったのに。

なのに昨夜の出来事が、唐突に蘇ってくる。
合鍵を回して入ったあの部屋。玄関に揃っていた、彼の靴と知らない女のパンプス。
頭に響いたのは『早く逃げろ』という心の声。

でも私は止まれなかった。寝室のドアを開け、見たくない現実を見てしまった。彼の腕に抱かれた知らない女。乱れたシーツ。衝動で合鍵を投げつけ、額に当たった彼の驚いた顔。

昨夜は怒りで頭が真っ白だったのに。だけど今夜は違う。こみ上げてくるのは、どうしようもない悲しみ。

未練なんてない。恋は終わった。
でも『何もできない私』がまた顔を出す。
男を見る目のなさ。親に頼らなきゃ暮らせない現実。自分の全部が、情けなくて悔しくて。

ああ、やっぱり私は『ドジっ子千成』のままなんだ。

涙がぽろぽろとこぼれ、止められなくなっていった。