ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする

段々と『九条』という名前が、とても重くのしかかってきた。慶智の高等部へ進学することも、私は次第に躊躇(ためら)い始めた。

なんせ、のほほんと生きてきた私。
将来の夢も、やりたいことも、これといってない。

そんな中で、幼い頃からずっと変わらず大好きなものが一つだけあった。ピーターズファミリーという、うさぎの人形たち。

慶智では、高一の段階で将来の進路を決めなければならない。それもまた、私の心を押しつぶす原因のひとつだった。

他校へ進学すれば、冬万と比べられることもない。

別に、冬万と仲が悪いわけじゃない。
むしろ、ドンくさい私をいつも助けてくれる優しい兄だ。だからこれは、冬馬のせいじゃなく……私自身の問題だった。

 

なんとかママを説得して、高校からは女子高へ。そのままエスカレーター式で女子大へ進んだ。

このときから、私はママの旧姓花村を名乗った。高校三年間は、下町に住む花村の祖父母の家から通学。大学生になってからは、女子寮という名の女子専用アパートへ移った。
ただし条件がひとつ、『週一で必ず九条の実家に顔を出すこと』。

 

高校時代から少しずつ、九条の名や冬馬の影に悩むことは減っていった。大学生になって初めて味わった一人暮らしの自由。

誰も私を『九条』という色眼鏡で見ない。
私は、私。千成でいいんだ。

 

でもね、高校でも大学でも、実家のことは一切話さなかった。
言えなかった。
もし話したら、周りが変わってしまう気がして。

だから、大学で初めてできた彼にも秘密にしたままだった。

 

私の二十歳の誕生日を過ぎた週末。
彼と一緒に、お祝いで“大好きな場所”へ行くことにした。

そこは、人気のピーターズファミリービレッジ。そして、その敷地内にあるパレスピーターズホテル!

 

大好きなうさぎの人形たちが暮らすテーマパークで思いっきり遊び、幼い頃、家族でよく泊まった特別なホテルに宿泊する。

しかも大好きな彼と一緒に。

 

そのピーターズファミリー漬けの前夜。
私は合鍵を使って、彼のアパートのドアを開けようとしていた。

だって彼はいつも、旅行やお出かけの支度を私に任せっきりだったから。そんな彼を放っておけず、どこか淡い“新婚夫婦ごっこ”をしているような錯覚さえしていた。