ロビー横のベンチ。
ラーラが笑顔で子どもたちに手を振り、その横に“ヘンテコウィル”登場。一瞬、空気がピシッと凍った。俺だけじゃない、全員が固まった。
平日で列は短い。これなら早く終わる――
はずだった。
アテンドも内心祈ってるだろう。
『頼むから荒らすな』と。
流れは単純。子どもがウィルとラーラの間に座り、写真を撮って握手して終了。
怖がれば“ご縁なし”で終わり。それだけのこと。
今のところ順調……に見えた。歩かない分、チビな体型も目立たない。
これはラッキーか?
次のゲストは小学生の男の子。親はハイテンション、本人は渋い顔。隠れピーターズファンか。
ふぅ……あと二人。そう気を抜いた、その時だ。
「おまえの正体、暴いてやる!」
甲高い声と共にウィルの耳が引き上げられる。
「絶対オッサンだろ!? 騙されねぇ!」
へっ、立ち上がりやがった⁉︎
極悪チビやろがベンチの上で勝ち誇って耳を引っ張り続ける。カメ子は必死に頭を押さえるが、不安定な足場じゃ無理だ。
思わず駆け寄ろうとするが、ロビーは人波。
母親が言い訳し、アテンドが制止し、極悪チビやろが抵抗。さらに野次馬がスマホを構え、カオス状態。
畜生、距離がどんどん遠くなりやがる。
胸の奥がドンッと跳ねた。間に合わなければ――あいつの夢が、一瞬で終わる。
その時、前方をライトグレーの物体が、
クルクルと回転しながら空を横切った。
ほんの数秒なのに、脳内はスローモーション。ライトグレーのそれは――悲しげに笑うウィルの頭だった!
ホラーじゃねぇかよ!!
“ゴドンッ”と重い音。顔は床に叩きつけられ、“ゴロン、ゴロン”と無慈悲に転がる。
あの極悪チビやろぉぉぉーー!!
許さねぇ、顔も名前も一生忘れねぇ!!
頭を失ったカメ子ウィルが、四つん這いで必死にそれへ近づく。だが痛々しくて直視できない。母親とアテンドは極悪チビを捕まえようと必死だ。
俺は他のアテンドに目だけで指示を送り、野次馬整理に回らせる。……が、間に合わねぇ。
次の瞬間、ロビーに子どもたちの悲鳴と泣き声が響いた。もう『笑い話』じゃ済まねぇ。完全に事故だ。
俺は人波を切り裂くように進む。触れず、迷わず、一直線に。
視界の奥、斜めに傾いたウィルの頭を必死にかぶり直そうとするカメ子。肩は小刻みに揺れ、ブカブカの瞳は遠くを見ていた。
その両脇に手を差し入れ、一気に引き上げる。驚くほど軽い。胸の奥が締めつけられる。
(……よく耐えたな)
左腕で背を支え、右手で腕を固定。視線は絶対外さない。
「カメ子、戻るぞ」
低く短く告げると、肩がわずかに震えた。
背後はまだ騒然だが、もういい。
……絶対に、こいつを一人で泣かせねぇ。
ラーラが笑顔で子どもたちに手を振り、その横に“ヘンテコウィル”登場。一瞬、空気がピシッと凍った。俺だけじゃない、全員が固まった。
平日で列は短い。これなら早く終わる――
はずだった。
アテンドも内心祈ってるだろう。
『頼むから荒らすな』と。
流れは単純。子どもがウィルとラーラの間に座り、写真を撮って握手して終了。
怖がれば“ご縁なし”で終わり。それだけのこと。
今のところ順調……に見えた。歩かない分、チビな体型も目立たない。
これはラッキーか?
次のゲストは小学生の男の子。親はハイテンション、本人は渋い顔。隠れピーターズファンか。
ふぅ……あと二人。そう気を抜いた、その時だ。
「おまえの正体、暴いてやる!」
甲高い声と共にウィルの耳が引き上げられる。
「絶対オッサンだろ!? 騙されねぇ!」
へっ、立ち上がりやがった⁉︎
極悪チビやろがベンチの上で勝ち誇って耳を引っ張り続ける。カメ子は必死に頭を押さえるが、不安定な足場じゃ無理だ。
思わず駆け寄ろうとするが、ロビーは人波。
母親が言い訳し、アテンドが制止し、極悪チビやろが抵抗。さらに野次馬がスマホを構え、カオス状態。
畜生、距離がどんどん遠くなりやがる。
胸の奥がドンッと跳ねた。間に合わなければ――あいつの夢が、一瞬で終わる。
その時、前方をライトグレーの物体が、
クルクルと回転しながら空を横切った。
ほんの数秒なのに、脳内はスローモーション。ライトグレーのそれは――悲しげに笑うウィルの頭だった!
ホラーじゃねぇかよ!!
“ゴドンッ”と重い音。顔は床に叩きつけられ、“ゴロン、ゴロン”と無慈悲に転がる。
あの極悪チビやろぉぉぉーー!!
許さねぇ、顔も名前も一生忘れねぇ!!
頭を失ったカメ子ウィルが、四つん這いで必死にそれへ近づく。だが痛々しくて直視できない。母親とアテンドは極悪チビを捕まえようと必死だ。
俺は他のアテンドに目だけで指示を送り、野次馬整理に回らせる。……が、間に合わねぇ。
次の瞬間、ロビーに子どもたちの悲鳴と泣き声が響いた。もう『笑い話』じゃ済まねぇ。完全に事故だ。
俺は人波を切り裂くように進む。触れず、迷わず、一直線に。
視界の奥、斜めに傾いたウィルの頭を必死にかぶり直そうとするカメ子。肩は小刻みに揺れ、ブカブカの瞳は遠くを見ていた。
その両脇に手を差し入れ、一気に引き上げる。驚くほど軽い。胸の奥が締めつけられる。
(……よく耐えたな)
左腕で背を支え、右手で腕を固定。視線は絶対外さない。
「カメ子、戻るぞ」
低く短く告げると、肩がわずかに震えた。
背後はまだ騒然だが、もういい。
……絶対に、こいつを一人で泣かせねぇ。



