ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする

ベテラン2人に両脇を固められ、女性更衣室へ引きずられていくカメ子。
まるで誘拐現場じゃねぇか。ランドセルでも背負っていれば完璧だ。


「ハァァ……」


俺は天井を仰ぎ、ため息を二度。だが愚痴るより先に、こいつに伝えるべきことがある。


「おい、カメ子。よく聞け……今日のミート&グリート、ウィル役はおまえだ」


長い沈黙。
更衣室から響くのは布の擦れる音だけ。中にいる全員が『無駄だ』と思ってる顔が目に浮かぶ。だが、今の俺たちに選択肢はねぇんだよ。

そして現れたのは、タオルで何重にも巻かれた丸々とした物体。いや、人。いや、カメ子。冷凍もちアイスが溶けかけて、ペンギン歩きしてるようにしか見えねぇ。

ぶっ、笑うとこじゃねぇぞ。

必死に奥歯を噛みしめて耐える。俺は何のために腹筋を鍛えてきたんだ。こんな非常事態でも笑わせてくるって、ある意味大物だな、こいつ。

ベテランの“手厚い洗礼”を経て、どうにかウィルへ変身完了。だが肩はスカスカ、上底下駄を履かせてもチビは隠せない。

鏡の前で頭を落としてバタバタ……俺はまたため息を追加。ベテラン2人も、もはや祈るような顔。

そこへ着信。
ウィル出勤要請。タイムアップだ。
よりによって、こんな形で夢を叶えさせることになるとはな……。こいつはドジでも最後までやり通す。その一点だけは、信じている。


「……カメ子、時間だ」


静かに告げ、バランスの悪い足元を支えながら歩かせる。今日は怒鳴らねぇ。おまえのペースで行け。

廊下の先、ロビーのドア前で立ち止まり、ぶかぶかの頭を見つめる。


「いいか、カメ子。1時間だ。俺や他のアテンドも周りにいる。おまえならできる!」



コクリと頷くウィル・カメ子。
よし! 絶対に一人にはさせねぇ。


「行くぞ」


意を決して、ドアを押し開けた。