【#178】ホラー劇場
(霧島海都──鬼島チーフ・私的観察記録)
記録日:某月某日(晴れ/曇り)
場所:ロビー横
対象:企画部マジアク課・花村千成
状況:ミート&グリート
―――――――――――――――――――
館内は、きらびやかなクリスマスデコレーションで彩られていた。ロビー中央には巨大なツリー。天井まで届く枝先に無数のイルミネーションが瞬き、磨き上げられた床に宝石のような光を反射させている。
ああ、今年もこの地獄の季節がやってきやがった。冬の繁忙期に加えて、風邪とインフルの大流行。企画部も例外なく被弾し、残された戦力は俺、ベテラン女性社員2名、そして“0.5人分の戦力”こと新人・花村千成(通称カメ子)。
正直、0.5人ってのも盛ってる。体力はハムスター並み、ドジの神に愛されすぎ。だから午後のキッズアクティビティルームの見守り役を任せていた。咳をしている子も増えていたから、本来ならそこに張りつかせておくだけで十分なはずだった。
ところが、午後の巡回から戻ったウィルの着ぐるみ担当が、着替えた瞬間に真っ赤な顔でダウン。即座に医務室送りにしたが、会社規定で着ぐるみ役は必ず企画部の人間が務めなければならない。代役? 管理職の俺は不可。残っている企画部員? 全滅。
ハァァ、よりによって、あいつしか残ってねぇ。
4時からのミート&グリートまで残りわずか。受話器を取ってベテラン女性に短く連絡を入れ、チラと腕時計――15:45。
胃に穴があくどころか噴火しそうな最悪の決断を迫られていた。
先月の『バックダンサーお姉さん代役事件』。やっと水に流しかけていた悪夢が、また俺の前に立ちはだかる。それでも現場は待ってくれない。
重い腰を上げ、課のドアを開け放つ。息を吐き切り、兵士みたいに深呼吸して叫んだ。
「はなむら──‼︎」
案の定、ギョッと振り向くカメ子。
ああ、どうせまた『自分が何かやらかした』って顔だな。心当たり多すぎて、常に犯人ヅラがデフォルトか。
「チッ……遅い、カメ子! とっととこっちへ来い‼︎」
立ち上がったのを確認して、俺は廊下をズンズンと進む。途中で何か言いかけたが、聞く気はねぇ。今は秒単位で動くしかない。
辿り着いた衣装部屋には、すでにベテラン2人が待機していた。俺がカメ子を連れてきたと理解したのか、いつも賑やかな彼女たちも今日は口をつぐんでいる。
入り口で立ち尽くすカメ子。肩を上下させ、全速力で走ってきたらしい。チビのくせに、意外と必死だな。
だが、ここから先は惨劇でしかない。
ならばこっちも腹を括るしかない。
「カメ子、トロトロすんな‼︎」
怒鳴り声で空気を震わせながら、自分の中の迷いを叩きつぶした。
いいか、今日は鬼の中の鬼で行くぞ、
霧島……いや、赤坂海都。
(霧島海都──鬼島チーフ・私的観察記録)
記録日:某月某日(晴れ/曇り)
場所:ロビー横
対象:企画部マジアク課・花村千成
状況:ミート&グリート
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館内は、きらびやかなクリスマスデコレーションで彩られていた。ロビー中央には巨大なツリー。天井まで届く枝先に無数のイルミネーションが瞬き、磨き上げられた床に宝石のような光を反射させている。
ああ、今年もこの地獄の季節がやってきやがった。冬の繁忙期に加えて、風邪とインフルの大流行。企画部も例外なく被弾し、残された戦力は俺、ベテラン女性社員2名、そして“0.5人分の戦力”こと新人・花村千成(通称カメ子)。
正直、0.5人ってのも盛ってる。体力はハムスター並み、ドジの神に愛されすぎ。だから午後のキッズアクティビティルームの見守り役を任せていた。咳をしている子も増えていたから、本来ならそこに張りつかせておくだけで十分なはずだった。
ところが、午後の巡回から戻ったウィルの着ぐるみ担当が、着替えた瞬間に真っ赤な顔でダウン。即座に医務室送りにしたが、会社規定で着ぐるみ役は必ず企画部の人間が務めなければならない。代役? 管理職の俺は不可。残っている企画部員? 全滅。
ハァァ、よりによって、あいつしか残ってねぇ。
4時からのミート&グリートまで残りわずか。受話器を取ってベテラン女性に短く連絡を入れ、チラと腕時計――15:45。
胃に穴があくどころか噴火しそうな最悪の決断を迫られていた。
先月の『バックダンサーお姉さん代役事件』。やっと水に流しかけていた悪夢が、また俺の前に立ちはだかる。それでも現場は待ってくれない。
重い腰を上げ、課のドアを開け放つ。息を吐き切り、兵士みたいに深呼吸して叫んだ。
「はなむら──‼︎」
案の定、ギョッと振り向くカメ子。
ああ、どうせまた『自分が何かやらかした』って顔だな。心当たり多すぎて、常に犯人ヅラがデフォルトか。
「チッ……遅い、カメ子! とっととこっちへ来い‼︎」
立ち上がったのを確認して、俺は廊下をズンズンと進む。途中で何か言いかけたが、聞く気はねぇ。今は秒単位で動くしかない。
辿り着いた衣装部屋には、すでにベテラン2人が待機していた。俺がカメ子を連れてきたと理解したのか、いつも賑やかな彼女たちも今日は口をつぐんでいる。
入り口で立ち尽くすカメ子。肩を上下させ、全速力で走ってきたらしい。チビのくせに、意外と必死だな。
だが、ここから先は惨劇でしかない。
ならばこっちも腹を括るしかない。
「カメ子、トロトロすんな‼︎」
怒鳴り声で空気を震わせながら、自分の中の迷いを叩きつぶした。
いいか、今日は鬼の中の鬼で行くぞ、
霧島……いや、赤坂海都。



