ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする

やはり理由は『ピーターズファミリーが好き』というやつ。ただ、こいつの場合、それだけじゃなかった。


「二年前、人生どん底だった私を慰めてくれたのが、貴社のウィルでした。
あの日から前に進めるようになり、いつか私も誰かを笑顔にしたいと思いました。
たとえ直接お客様と接しなくても、間接的に関われる企画部を希望しました」


小日向のおっちゃんが感動したのは、このチビが『家族みんなが楽しく笑って過ごせる』という言葉を知っていたことだ。

各赤坂マリンホテルには、社長である俺の親父の小さな写真が飾ってある。その下に刻まれているのが、この言葉だ。正直、気づくやつなんてまずいない。装飾の一部みたいにひっそり置かれてるしな。

面接でこの言葉を初めて口にしたのが、花村千成。そりゃあ、面接官たちも感動するわけだ。その場で満場一致で採用決定、まるで美談。

普通なら、そこでいい話として終わる。
だが、やっぱり花村千成――カメ子。
この後、美談を軽々と吹き飛ばすインパクトを残しやがった。

面接を終え、退出するカメ子。深々とお辞儀し――


「本日はお日柄もよく……? うへっ、ち、ちがう……、貴重なお時間、ありがとやんした……。ぅぅぅ……」


真っ赤に茹で上がった顔、こめかみには玉の汗。アワアワしながら、もう一度お辞儀してドアのレバーを下に押し、思いっきり引く。

……開くわけねぇだろ、内側からは押すんだよ。

そのまま閉じたドアに正面衝突。

この時点で、カメ子はもう健在だった。


「ふっ、ぷ……ぐっ……ぶふっ!」
「こりゃあ、たまらんっ!」


口元を押さえ、肩を震わせる年配面接官たち。耐え切れず、場は静かな爆笑に包まれたという。

その話をおっちゃんから聞いた瞬間、俺の脳裏に、二年前の夜――
パレスの大人専用ラウンジカウンターの隅で、必死に涙をこらえていた小さな背中と、潤んだ大きな瞳が浮かんだ。

その時、宿泊者たちは皆、ビレッジでのパレードと花火を見に出払っていた。だから、この広いラウンジで小さな背中は、ぽつんと一人きり。あの光景は、今でも鮮明に焼き付いている。


やめろ、仕事だ。思い出すな。
だが、わかってる。あの時の子リスは、
目の前のカメ子だ。
初めて会った日から、俺はもう知ってた。

……言いたい。
だけど今じゃない。
俺はただ、あの小さな背中をこれからも見守り続けると決めた。