ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする

テンパりすぎて、まともに立ち上がれないウィルボディの私。仕方なく、モフモフの腹をズリズリ床にこすりながら、まるでカメが甲羅背負って匍匐前進(ほふくぜんしん)
必死に頭を探す。

その間にも飛び交う怒号と悲鳴のオンパレード。


「君、待ちなさーい!」
康太(こうた)君、謝りなさいってば!」
「捕まえてみろよ〜! あははははは〜〜!!」


ヤバい、あの子、完全に悪魔化してる。
魂乗っ取られてるってば!
ギラギラの目、さっきよりも光増してない⁉︎ ホラー通り越してバイオレンスファンタジーだよコレ!

親の怒声、泣き叫ぶ子どもたち、そして這いつくばる首なしウサギの着ぐるみ。たった一人の小学生男子によって、(きら)びやかなホテルロビーは秒で『地獄のクリスマス会場』に早変わり。

やっとのことで頭を発見! モフモフの腕をバタつかせ、必死に抱え込んでガバッと装着。

……ああ、これで元通り。
って、暗ッッ‼︎

視界、やたらと暗い。しかも、耳の外から悲鳴の嵐。


「ギャァァァ〜〜‼︎ ウィル怖い!」
「顔ないヨォォォ!」
「いやだぁぁぁぁ〜〜!!」


……顔ない⁉︎ 私、顔あるよ? 
えっ、あるよね⁉︎

慌ててモフ手で自分の顔を触る。
ある。けど……触感が……変。
あっ……これ、のっぺらぼうじゃん‼︎

ひいぃぃぃぃぃぃぃ‼︎‼︎‼︎

パニックになって、ブカブカのウィルヘッドをぐるんと180度回転させた瞬間。


「ゴワイィィィ! ごわいヨォォォ!」
「ママぁぁぁ〜〜! おばけェェ〜〜!」
「こっち来ないでぇぇぇ〜〜!」


泣き声シャワーが私に降り注ぐ。もうどうしていいかわからず、ウィルボディのまま床にぺたんと座り込む私。

そのときふわりと体が浮いた。
背中に回る大きな手、モフ越しでも伝わる熱。がっしり腕を取られ、立たされる。


「……カメ子、戻るぞ」


耳元で落ち着いた低音。その瞬間、頭の中に稲妻が走ったみたいに全身が熱くなる。

この声、この距離、この支え方ずるい、ずるい、ずるいっ‼︎

霧島チーフは、泣き叫ぶ子どもたちと怒鳴る大人たちのカオスをものともせず、私をしっかりと支えて歩く。その歩幅に合わせてくれるから、不安定な発泡ウレタン草履でも転ばない。

あれ、これ、何かに似てる。そうだ、あの日、雨上がりの森の香りと一緒に抱きしめられたあの瞬間だ。

あ、ヤバ。こんな時に思い出すとか。
私、どんだけ乙女脳?

華やかなロビーを横切り、マジックドアを開けて現実世界へ。視界の端に、泣きじゃくる子どもたちと“のっぺらぼうウィル”の幻影がまだチラつくけど。

背中のぬくもりと低い声が、全部消し去ってくれる気がした。

ホラー劇場から、恋の余韻つきで退場。