ドジっ子令嬢は着ぐるみうさぎに恋をする

完成したウィル姿を、大きな姿見の前でチェック。

……うん、マジで有り得ない。

バスタオル何枚も巻いてお腹はパンパン。肩パッドも浮き気味で、足元はフラつく。
“安定感のあるウィル”は、ここには存在しない。

ガックリうなだれた、その瞬間。


ズルッ……ボテッ!


ヤバい。頭、落ちちゃったよ。

横目に映った鬼島チーフは、天を仰いで深〜い溜息。

あっ、絶対やる前から呆れてるやつ。

慌てて頭パーツを拾い直すと、ミート&グリート開始5分前の連絡が入った。


「……カメ子、時間だ」


鬼の顔が一瞬、菩薩に変わった。申し訳なさそうな表情。初めて見るかもしれない。

ここにいる全員、私に無理だって分かってる。悔しいけど、自分でもそう思う。

でも、鬼島チーフがあんな顔をするなんて。
だったら、やるしかない!

大丈夫、私は“できる子ちゃん”。このホテルのために、子どもたちの笑顔のために。
九条=花村千成、人肌脱ぎます‼︎



菩薩様に手を添えられ、廊下をゆっくり進む。

着ぐるみ越しに伝わるしっかりした温もり。
ふっと香るシトラス、続いて芝刈り直後のようなグリーンな香り――懐かしい。安心する。

あれ、以前にもあった?

そんな記憶を探る間も、彼は私に合わせて歩調を緩めてくれる。その優しさに、胸がまたキュンと鳴った。

ついにマジックドアの前に到着。
ドアノブに手をかけた鬼島チーフは、なぜかすぐには開けない。

心配そうで励ますような、まっすぐな目。


「いいか、カメ子。1時間だ。俺や他のアテンドも周りにいる。おまえならできる!」


予想外の嬉しい言葉に、思い切り首を振った。

おっと、ヤバい!
カックンカックン、危うく前後スライディング状態。今日は絶対に頭を落とさない!


「よし、行くぞ」


チーフの合図と共に、ドアが開いた。

一丁やってやろうじゃないの!
九条=花村千成、いざ土俵入り‼︎