ひとまず家に戻ろうとすると、大きな車が優美の目の前に停まった。

「遅刻はヤバいっしょ?
乗っていけば?」

大きなリムジンから顔を出したのは、両親の幼馴染の息子、麗眞(れいま)さんだった。
 
優美より3つ年上だ。
 
彼の幼なじみで婚約者の椎菜(しいな)さんとはもうすぐ結納をするらしい。

あれはまだ、優美が中学生になろうかという年の頃。

 両親と、その知り合い一同と共に、
グアム旅行を楽しんだことがある。

麗眞さんと椎菜さんとは、その時一緒に温水プールに入ったことのある仲だ。
 
「旦那様、道も混んでいるようです。
極力迂回ルートを使います。

優美(ゆうみ)さま、急いでお乗り下さい」

麗眞さんの執事、相沢(あいざわ)さんが、優美の手を軽く引いて車に乗せてくれた。

不思議と恐怖は感じなかった。

昔から知っている仲だからだろうか。

 無事に車は事務所の前に到着した。

アクセサリーケースの中にあったピアスも、きちんと着けられた。

今日はいい日になりそう!

「どうぞお気をつけくださいませ、優美さま。
帰りは冷えてきますので。
お風邪など召されませんように。

頑張ってくださいね。

 行政書士の傍ら、デモ活動までやられていて、
 素晴らしい行動力です。
 
貴女様の母親に似たのでしょう。

 くれぐれも、お気をつけください。

 なにかお困りごとがあれば、
 いつでも相談してくださいませ」

相沢さんが預かってくれていた優美のジャケットを渡してくれる。

「忘れてた!
相沢さん、ありがとうございます!

麗眞さんも、久しぶりに顔を見れて良かったです!
 
財閥の当主になるのもプレッシャーでしょうが、応援しています!
 何かあれば、頼るかもしれません。

椎菜さんにも宜しくお伝え下さいね!
 久しぶりに彼女にも会いたいです」