響け、希望と愛の鐘

その夜、優美は事務所を後にし、いつもの電車で帰宅した。

駅のホームで、背後に気配を感じる。

 振り返ると、黒いフードの男が、ホームの反対側でじっと見つめている。

 目が合うと、男はゆっくりとスマホを構え、優美を撮影するような仕草をした。

 彼女は息を呑み、電車に飛び乗った。

マンションに着く頃には、23時を回っていた。

 階段を上る足音が、静かな住宅街に響く。

 郵便受けを開けると、また異変があった。

 デモのチラシが細かく破られている。

『次のデモがお前の最期だ』と書かれた紙が挟まれている。

 優美の手が震え、鍵を開けるのに手間取る。

 部屋に入り、ドアを施錠したが、窓の外でガサガサと物音がした。

カーテンをそっと開けると、駐車場の暗がりに黒いフードの男が立っていた。

 街灯の光が、男の顔をぼんやり照らす。

 見覚えのある顔だった。