響け、希望と愛の鐘

駅までの道を歩きながら、優美は周囲を警戒した。

 朝の通勤ラッシュで人は多いが、背後の気配が気になる。

 コンビニの角で立ち止まり、振り返る。
 
……誰もいない。

 だが、昨日と同じ黒いフードの男が、遠くの電柱の陰でじっと立っている気がした。

 心臓が跳ね上がり、彼女は足を速めた。

事務所に着くと、ボランティアの奈穂が待っていた。

 奈穂は20歳の大学生で、痴漢被害の経験をきっかけに「女性スペースを取り戻す会」に参加していた。

 彼女はピンクのプラカードを持ち、笑顔で言う。

「優美さん、このデザイン、どうですか?
 全国デモ、目を引く色を使って、
 目立つようにしたんです!」

「うん、いいね。

 奈穂、ありがとう」

優美は笑顔を絞り出したが、声が弱い。

 奈穂が心配そうに尋ねる。

 「優美さん、大丈夫?
 なんか、顔色悪いですよ」

「……ちょっと、寝不足なだけ」

優美はごまかしたが、奈穂の純粋な目に、胸が締め付けられた。

 彼女のような若い女性のために、声を上げ続けなければいけない。

 そう思うのに、ストーカーの影が心を重くする。