あのね、先生


社会人になってからの毎日は、
学生の頃のように劇的な変化があるわけでもなく、淡々と過ぎていくものだと思っていた。


この日を迎えるまでは———


社会人生活も4年目になり、
最近は取引先とのやり取りで英語を使う機会が増えてきたのだが……

自分の英語の語彙力(ごいりょく)に限界を感じ、
挙句には上司からも


「英会話スクールとか通ってみたら?」


と言われてしまう始末。


私は正直、乗り気ではなかったが、
仕事に必要だから仕方なく……と、
英会話スクールに申し込んだ。



——そして迎えた英会話スクールの初日。



教室の扉を開けると、誰もいなかった。
ガランと空いた教室は、20人弱の広さだろうか。


まぁ、体験コースだし……
1人でもおかしくはないか。


けれど時間になっても、教室には誰も来ない。


英会話スクールって、
初めてだけどどんな感じなんだろう。

誰かにちゃんと教えてもらうのは、
中学の塾以来だな……。


講師が来るのを待ちながら、
そんなことをぼんやり思っていると──


「サノさーん!こっちこっち!」


聞き覚えのある名前が廊下に響く。



懐かしい名前だな……



そう思った瞬間、
一人の男性が教室に入ってきた。



「遅くなって、すみません」



その顔を見て、私は息を飲んだ。



そこに立っていたのは——



「今日から担当する佐野(さの)です」



私の、大好きだった人だった。


ーーー