「へ?!なっ……茄子が動いた!?」

 と、私が声をあげると。

「ん~?寝ぼけてるんですか~千尋先輩。おはよ~ございます。わぁ~……朝から千尋先輩のたわわな生のおっぱいが見れるなんて、俺は幸せ者だな~」

 むにゃむにゃと、寝ぼけてるっぽい茄子川君の声がして、私は布団で裸を隠した。けど、その声の先には茄子しか転がっていない。しかも、よく見るとその茄子には、両手足があり、目鼻口も付いていた。

「ひっ!?なっ……え?もっ、もしかして……なっ、茄子川君……?」

 私は転がってる茄子に、そう聴いた。すると。

「も~……ほんとに寝ぼけてるんですかぁ、せんぱぁい。昨日の熱い夜を忘れた……なんて、言わせませんからね?」

 茄子川君の色気混じりの声がする。……茄子の方から。

「──さて、今日は日曜日ですし……どうします?俺、一旦家帰って着替えて、一緒にデートにでも行きませんか?それとも~……もう一度、昨日の熱い夜のことを思い出させましょうか?」

 と、茄子は上体を起こし、茄子川君の声で何か言ってる。


「えっと~……う~ん……茄子川君で間違いない、かな?」
「……先輩、本気で寝ぼけてるんですか?俺ですよ、茄子川類ですよ」

 そう、真剣な口調で、茄子川君は言う。いや、茄子川君の声で、茄子が言う。

 この茄子はやっぱり茄子川君で間違いないようだ……けど。

「あの……茄子川君。驚かないでね……って言うのは難しいかもしれないけど……落ち着いて聴いてね」
「?なんですか?」
「その……ね、今茄子川君……茄子になってるの」
「……はい?」
「うん、あのだから、茄子川君……身体が茄子になってるの」

 しばらくの沈黙。のち。

「ぷはっ!ははは、も~……先輩マジでどうしたんですか?俺が茄子になってるってなんですかぁ?」

 茄子が笑った。

「いやあの、ほんとに!茄子川君なんだろうけど、どこからどう見ても茄子なの!茄子川君は今、茄子なの!」
「先輩、マジで大丈夫ですか?昨日そんなに飲み過ぎましたか?」
「……わかった、ちょっと待ってて」

 そう言って、私はベッド傍に脱ぎ捨てられていた茄子川君のワイシャツを着け、ベッドから降り、手鏡を取りに行った。

「はい、この鏡で自分の姿を見てみて」
「先輩、裸で彼シャツとか、めちゃエロいんですけど」
「今はそんなことどうでもいいから、ほら!」

 私は手鏡を、茄子に押し付けた。

「寝起きの俺を見るより、彼シャツ姿の先輩を見ていたいのに……」

 ぶつぶつ言いながら、茄子は私から手鏡を受け取ると、鏡を覗き込んだ。
 すると。

「…………………えっ?なに、この茄子。え?俺?」

 鏡を見ながら、茄子は手と声を震わせた。もしかしたら私にしか、茄子川君が茄子に見えるのかもしれないと思ったけど、どうやら違うらしい。茄子川君自身にも、茄子に見えるようだ。