恋という呪い


 場所は一人の病室。

 彼女は窓際のベッドで、外には桜の並木が見えた。

 そこでは子供たちが遊んでいて、その様子を父親や母親が見守っている。

 ごくごく普通の家庭の、ごくごく普通の日常。






 でも、彼女にとっては羨ましかった。

 なぜなら外に出ることができないから。

 長い事病気闘っていて、でもその闘いはそれは終わりにと近づいていたのだから。

 彼女は呟くんだ。

「せめて、少しぐらい青春したかったなー」

 って。残念そうにしながらも、仕方ないって受け入れる感じ。





 でも、そんな呟きをする彼女には一週間に数回、面会に来てくれる人がいた。

 まだ、身体が生き生きとしていて、学校に登校ができていた時に仲良くしてくれていた同じクラスの男の子。

 彼女に会うたびに、どこか緊張していて、すごく分かりやすいタイプ。

 もちろん、彼女は男の子が自分に対してどんな思いを持っているのか分かってた。

 たった数ヶ月の付き合いだというのに、こんなに面会に来てくれるのは、妄想だとしか思えない。わかりやすい。





 だからこそ、彼女は嬉しかった。自分を好きになってくれて。





 でも、いずれ男の子は伝えに来る。その時が来るまではただ、この時間を過ごしていたい。
 伝えに来たら、返す答えは決まっている。
 だから伝えに来てほしくない。
 残りの時間を、男の子と過ごしていたいから。





 結局、その時が来るんだけどね。

 雲一つない晴れの日。少しばかり桜が散り始めている頃。

 この日も男の子はやってきた。ただ、いつもとは違う。
 小さな花束を持ってきていた。

 彼女は理解した。男の子が何をするのかを。

 だから言った。





「いつも来てくれてありがと……これからも、友達としてよろしくね」





 回りくどく言った。
 だけど、男の子はそれを感じ取って、頷いてくれる。





 男の子の恋は終わりを告げた。