色褪せて、着色して。~番外編~

 実のところ、スズメの母親はC村にある娼婦館で働いていた。
 娼婦館は、国中の美女を集められ。
 C村の娼婦館は、騎士相手の高級娼婦館なのだという…
 そこで、売れっ子だった母親は騎士である父親に買われ。
 城下町に一軒家を与えられ、愛人として生活を送ることになった。
 やがて、生まれたのはスズメであった。

 父…と呼ぶ人間はスズメに優しかった。
 好きなものは何でも買ってくれた。
 ただ、本妻と本妻の間に出来た子供は、母親とスズメを嫌っている。
 世間体に見れば当たり前だろう。
 だが、大人になってみて、スズメは気づく。
 愛人がいるのは、貴族は当たり前だということを。

 母は国で一番美人だと言われるくらい、綺麗な人だった。
 教養があり、賢い人だ。
 スズメは、母が一番だと思っていた。
 だから、幼い頃は母と結婚しようと本気で思い込んでいた。
 母が人生のすべてだ。
 母がいれば、何もいらないのだ。
「お、大丈夫っすか。パイセン!」
 トペニの声に、「先輩と言え」とスズメは顔をしかめた。
 見たことのない天井が目に入る。
 スズメは、横になっていることに気づいた。
 ここは、一体どこだ…。
 ゆっくりと起き上がるが、見覚えのない部屋である。
「パイセン大丈夫っすか。やっぱり、医務室行くべきっしょ」
 ぎゃんぎゃん喋るトペニに「どういうことだ」とスズメは呟く。
「パイセン急に倒れたんすよ」
「は?」
 スズメはトペニを凝視した。

「あら、お目覚めですか」
 すっとやって来たのは、さっき見た侍女…バニラだ。
「あの…俺。ここは、どういう・・・」
「我が主と挨拶しようとした際、倒れたのです。ですので、部屋で休んでいただいております」
「部屋? え、ここ。やんごとなき家の中!?」
 スズメの滅茶苦茶な言葉にトペニは「なんすか、それ」と言って笑った。
 スズメは飛び上がった。
 ソファの上に寝かされていたようだ。
 地面に座り込むと、土下座した。
「申し訳ありません。初対面の方にご迷惑をかけて」
 ごちんと音をたてて、スズメは頭を下げた。
 ここが本当にやんごとなき方の家だというのならば。不敬罪に該当する。
 自分が罰せられるのはまだいい。
 ただ、この国家騎士団は何がおこるかわからない。
 難癖つけられて、母親にまで害が及ぶのまでは避けたい。

「どうか、頭をあげてください」

 侍女とは違う声が上から降ってきた。
 スズメがゆっくりと顔をあげると。
 まぶしい…と思った。
 さっき見た美しい人が立っている。