感情を殺すというのが、どれだけ難しいことなのか。
 デイには、よくわからなかった。
 メグミが言うように、自分はあと2年でニンジャを引退する。
 その時、自分は何をしているのか。
 そもそも、生きているのかさえわからない。
 だから、考えないようにしている。

「デイ。引退したら遊びに来てくれ」
 明け方。裏門からこっそりとメグミが出て行こうとしている。
 見送るのは、デイの姿しかない。
「気が向いたら、行きます。あと、これ。ローズ様が渡してくれって」
 一本の薔薇を渡すと。
 メグミは「おお、良い匂いだ」と言って喜んだ。
「あとは、頼む」
 メグミは頭を下げて、ゆっくりと歩いて行く。
 デイは木の上を見上げた。
「いいんですか、お別れの挨拶は」
 サングラスをかけているが、ローズ様だというのはすぐにわかる。
 ローズ様を残酷だという人もいるが。
 メグミに対しては、本当に可愛がっていたというのがデイにはわかった。