色褪せて、着色して。~番外編~

 夜の闇が濃くなっていく頃。
 メグミとデイは、まだ木の上に立っていた。
「ピアノ、まだ弾いているんですね」
 微かに聞こえるピアノの音にデイは感心していた。
 メグミは黙って頷いたが、ぴくりと何かを感じ取って下を見た。
 デイもすぐに気づいた。
「…10人ほどいますけど。消します?」
 マヒルの家の周りを、騎士たちがまばらに囲っている。
 隠れているつもりだろうが、木の上からは丸見えである。
「見たところ、肉体班もいれば頭脳班もいますね」
 暗いというのに、瞬時に見分けられるのはニンジャの特技である。
「…あの者たちは対象ではない」
「え、じゃあ。なんのために?」
 眺めていると、騎士の一人が郵便受けに何かを入れた。
 それを筆頭に何人かの騎士が郵便受けに紙を入れている。
 しばらくすると、家の前に立っていた護衛が郵便受けの中身を取り出して。
 家に入って行った。
 てっきり、ラブレターを書いたのかと思ったデイは。
 あいつら、消される覚悟で来ているのか。
 と思った。

 ピアノの音がやんだかと思えば。
 窓を開ける音がして。
 鮮明にピアノの音が聞こえてくる。
「真夜中のコンサートだそうだ」
 メグミが低い声で言った。
「騎士には娯楽があまりないからな。ああやって、騎士が自分の好きな曲を紙に書いて。マヒル様に弾いてもらっているそうだ」
「へえ~。よく、あの方が許しましたね」
 見ると、近くで隠れている騎士たちがうっとりと聞き惚れている。