色褪せて、着色して。~番外編~

「あの家に住むのが、ローズ様の寵姫。マヒル様だ」
 夕方。
 デイとメグミは木の上に立って。
 一軒家を眺めていた。
 メグミは身体に包帯をぐるぐる巻いた状態で立っている。
「ほとんど家に籠っているが、夕方に一度。散歩するのに家を出ている。あ、出て来たな。
側にいるメイド服を着ているのが、マヒル様の侍女。あの、ローズ様にそっくりなのが、マヒル様だ」
「…まさか」
 感情を排除して生きていたデイは、流石に驚きを隠せなかった。
「どうだ、そっくりか?」
 こうやって、一緒に任務していると、メグミの目が見えないことを簡単に忘れてしまう。
「いや…、確かにローズ様に似ていますけど。むしろ、前の王妃様に似ています」
「そうか…」
 メグミが呟くように言ったが。
 これは…大問題ではないのかとデイは感じ取った。
 王宮から若い女性を大量排除した金糸雀の女王と顔が似ている…

 いや、だが。デイは実際にローズの母親に会ったことはない。
 こっそり、宮殿にある自画像を盗み見ただけなのだから。
「タヌキどもからの圧力は?」
「それは大丈夫だ。あの方のことになると、金糸雀の女王ばりの力を発揮なさる…」
「……今のは訊かなかったことにしておきます」
 前国王の側近たちは、タヌキと呼ばれている。
 ローズ様が即位した頃は、やたら衝突していたと思ったが…。
 所詮は側近。相手は、国王。

 マヒルとバニラはゆっくりと歩いている。
「しかし、寵姫がこのようなところに…」
 見張りながら、こぼれ出た疑問だったが。
 デイは愚問だったことに気づいた。