色褪せて、着色して。~番外編~

「生まれ変わったら、娼婦にも愛人にもならないわ。ぜったいに嫌」
 一度だけ、母が愚痴をこぼした。
 珍しく母は酔っていた。
 酒の強い母が酔っているところをスズメは初めて見た。
「みんな大嫌いよ。みーんな呪われてしまえばいい」
 赤ワインを飲み干すと。
 母は涙を流した。

 愛馬のハヤブサから降りると。
 家の前に立っていたトペニが笑顔で「お疲れっす!」と言う。
「マヒル様に用がある」
 とスズメは低い声で言うと。
 乱暴に玄関のドアを開けた。
 ピアノの音へするほうへ行くと。
 マヒルの姿があった。
 スズメは「お聞きしたいことがあります!」と勢いよく部屋に入った。
 マヒルはピアノを弾くのをやめて、スズメを見る。

「マヒル様が国王の愛人というのは本当ですか?」

 部屋いっぱい響く声でスズメが言うと。
 マヒルはスズメを睨んだ。
 小さく「は?」と言ったのだが、スズメの耳には入らない。

「ちっと、どうしたんすか、パイセン。勝手に入り込んで」
 様子を見に来たトペニに、スズメは「うるさい」と言った。
 完全に頭に血がのぼっているスズメに対し。
 マヒルは冷めた目でスズメを見つめていた。

「なあに? 私が国王の愛人だったら、どうなの?」
 すっとマヒルが立ち上がるとスズメに近寄る。
「軽蔑する? それで、護衛の仕事はやめるのかしら?」
 澄んだ青い目で見つめられると、スズメの心臓は一気にバクバクと音を立てる。
 マヒルが怒っているのがわかった。
「…す、すいませんでした」
 身体を90度近く折り曲げて頭を下げたスズメは一目散に逃げ出したのだった。