2時間以上かけての窓ふきが終わると。
カスミは大喜びでランチの準備をしてくれた。
「是非、お庭で食べてね。うちは庭が自慢ですから」
庭のはじっこで。
レジャーシートを引いて。
カスミが用意してくれたサンドイッチと飲み物を並べる。
眼鏡をかけた青年はナズナというそうで。
少し離れたところに座って一人、食事をしている。
カイは、一度家に戻るということで。
スズメと一緒に食事をとっているのは、セリとキキョウの2人である。
2人は人懐っこいお陰でスズメは安心して話すことが出来た。
「うまいな、このサンドイッチ」
口いっぱいにサンドイッチを放り込んだスズメを見て、セリが笑った。
「スズメさんが優しい人で良かった」
重みのある言葉にスズメはセリを凝視してしまう。
「なんだ? もしや、君たちはこの屋敷の主人にいじめられているのか?」
「いやいや。違いますよ。騎士の人って俺らみたいな人間、ゴミ扱いするのがほとんどだから」
「まあ、騎士にも例外がいますけどね」
キキョウが最後の1個を素早く手に取って口に入れた。
「セリもキキョウも、村出身なのか?」
「あー、俺はC村で生まれて一旦、外に出ましたけど。みんな外の人間っすよ」
外の人間が何故、此処に?
という疑問がスズメの脳裏によぎったが。
訊ける雰囲気ではないことがよくわかった。
「いやあ。こんな美味しいもん。毎日、食べているのかあ?」
スズメがとっさに話題を変えると。
セリは目をキラキラさせる。
「ここのご飯も美味しいですけど、俺はやっぱりバニラさんの料理が好きです!」
「珍しい料理も食べられるもんな」
「バニラさんって…マヒル様の侍女?」
「そうっす。めっちゃ料理得意なんですよ」
侍女なら、料理が出来て当たり前なのでは…。
風がそよそよとなびく。
カスミが自慢する庭園は見事だった。
色とりどりの美しい花と木。
ここは時間がゆったりとしているようだ。
「なあ。セリもキキョウもマヒル様とは面識があるのか?」
牛乳を一気飲みしてスズメが訊いた。
「勿論ですよ。綺麗な人です」
「なあ。マヒル様ってどんな人だ?」
よほど大きい声を出していたのか。
スズメが視線を感じて振り返ると、木に寄りかかりながらナズナがこっちを睨んでいる。
「どうって…」
マヒルの護衛なのに知らないのか?
という困惑の表情をする。
すぐに読み取ったスズメは、
「いや。俺、まだマヒル様のところで働くことは決まったけどさ。今、俺さ。サンゴさんのところで修行中なわけ。サンゴさんからお許しが出たら正式に護衛になるわけでさ。だから、あんまりマヒル様のこと知らないわけよ。何も知らないのに護衛するのも、なんか失礼っしょ」
別に慌てることもないのに、スズメはベラベラとまくし立てるように一気にしゃべった。
セリとキキョウは顔を見合わせて「なるほど」と言った。
「そういや、トペニのときもそうだったよな」
とキキョウが頷く。
「マヒル様はスカジオン王国の王族で人質としてこの国に来ているのはご存知ですよね?」
「…まあな。それくらいは知ってる」
スズメは初めて知った事実にとんでもない衝撃を受けた。
「旦那さんの太陽様は?」
「太陽様…? えと。すまん、その呼び名だとわからなくてな」
「あれ、騎士団だと違う呼び名なのかな?」
キキョウが腕を組んで考える。
顔には出さないが、スズメは心の中で絶叫していた。
「確か、肉体班で国王のお気に入りだから常に戦争に行っているって」
「お気に入りで戦争?」
「えーと、身長はスズメさんくらいで目がとにかく大きい人です」
「うーん…顔見ればわかるかもしれない」
思わず頭をおさえこむスズメ。
あの美しい姫君が結婚しているとは…
スズメの落胆は大きかった。
顔に出すわけにはいかない。
でも、モヤモヤした感情が身体を支配する。
「スズメさん」
顔を上げると、さっきまで一人でいたはずのナズナがスズメの前に立っている。
ナズナは眼鏡のずれを直した。
「マヒル様と仲良くなろうと思っても無駄ですから」
ナズナの言葉に、「うわあ~」とセリが悲鳴を上げる。
ナズナは「うるさい!」と言ってセリを睨みつける。
「なんで、無駄なんだ?」
「あなた馬鹿ですか? マヒル様は国王の寵姫なんですから。わかってるでしょう」
チョウキ。
チョウキとは?
スズメは立ち上がって、ナズナを見下ろす。
ナズナはスズメに殴られるのかと思ったのか、思わず腕で顔を隠した。
「…あの姫君は愛人なのか?」
みるみる血の気が引いて行ったスズメは、心よりも身体が勝手に動き出していた。
後ろから青年たちが叫んでいるがスズメの耳には入らなかった。
カスミは大喜びでランチの準備をしてくれた。
「是非、お庭で食べてね。うちは庭が自慢ですから」
庭のはじっこで。
レジャーシートを引いて。
カスミが用意してくれたサンドイッチと飲み物を並べる。
眼鏡をかけた青年はナズナというそうで。
少し離れたところに座って一人、食事をしている。
カイは、一度家に戻るということで。
スズメと一緒に食事をとっているのは、セリとキキョウの2人である。
2人は人懐っこいお陰でスズメは安心して話すことが出来た。
「うまいな、このサンドイッチ」
口いっぱいにサンドイッチを放り込んだスズメを見て、セリが笑った。
「スズメさんが優しい人で良かった」
重みのある言葉にスズメはセリを凝視してしまう。
「なんだ? もしや、君たちはこの屋敷の主人にいじめられているのか?」
「いやいや。違いますよ。騎士の人って俺らみたいな人間、ゴミ扱いするのがほとんどだから」
「まあ、騎士にも例外がいますけどね」
キキョウが最後の1個を素早く手に取って口に入れた。
「セリもキキョウも、村出身なのか?」
「あー、俺はC村で生まれて一旦、外に出ましたけど。みんな外の人間っすよ」
外の人間が何故、此処に?
という疑問がスズメの脳裏によぎったが。
訊ける雰囲気ではないことがよくわかった。
「いやあ。こんな美味しいもん。毎日、食べているのかあ?」
スズメがとっさに話題を変えると。
セリは目をキラキラさせる。
「ここのご飯も美味しいですけど、俺はやっぱりバニラさんの料理が好きです!」
「珍しい料理も食べられるもんな」
「バニラさんって…マヒル様の侍女?」
「そうっす。めっちゃ料理得意なんですよ」
侍女なら、料理が出来て当たり前なのでは…。
風がそよそよとなびく。
カスミが自慢する庭園は見事だった。
色とりどりの美しい花と木。
ここは時間がゆったりとしているようだ。
「なあ。セリもキキョウもマヒル様とは面識があるのか?」
牛乳を一気飲みしてスズメが訊いた。
「勿論ですよ。綺麗な人です」
「なあ。マヒル様ってどんな人だ?」
よほど大きい声を出していたのか。
スズメが視線を感じて振り返ると、木に寄りかかりながらナズナがこっちを睨んでいる。
「どうって…」
マヒルの護衛なのに知らないのか?
という困惑の表情をする。
すぐに読み取ったスズメは、
「いや。俺、まだマヒル様のところで働くことは決まったけどさ。今、俺さ。サンゴさんのところで修行中なわけ。サンゴさんからお許しが出たら正式に護衛になるわけでさ。だから、あんまりマヒル様のこと知らないわけよ。何も知らないのに護衛するのも、なんか失礼っしょ」
別に慌てることもないのに、スズメはベラベラとまくし立てるように一気にしゃべった。
セリとキキョウは顔を見合わせて「なるほど」と言った。
「そういや、トペニのときもそうだったよな」
とキキョウが頷く。
「マヒル様はスカジオン王国の王族で人質としてこの国に来ているのはご存知ですよね?」
「…まあな。それくらいは知ってる」
スズメは初めて知った事実にとんでもない衝撃を受けた。
「旦那さんの太陽様は?」
「太陽様…? えと。すまん、その呼び名だとわからなくてな」
「あれ、騎士団だと違う呼び名なのかな?」
キキョウが腕を組んで考える。
顔には出さないが、スズメは心の中で絶叫していた。
「確か、肉体班で国王のお気に入りだから常に戦争に行っているって」
「お気に入りで戦争?」
「えーと、身長はスズメさんくらいで目がとにかく大きい人です」
「うーん…顔見ればわかるかもしれない」
思わず頭をおさえこむスズメ。
あの美しい姫君が結婚しているとは…
スズメの落胆は大きかった。
顔に出すわけにはいかない。
でも、モヤモヤした感情が身体を支配する。
「スズメさん」
顔を上げると、さっきまで一人でいたはずのナズナがスズメの前に立っている。
ナズナは眼鏡のずれを直した。
「マヒル様と仲良くなろうと思っても無駄ですから」
ナズナの言葉に、「うわあ~」とセリが悲鳴を上げる。
ナズナは「うるさい!」と言ってセリを睨みつける。
「なんで、無駄なんだ?」
「あなた馬鹿ですか? マヒル様は国王の寵姫なんですから。わかってるでしょう」
チョウキ。
チョウキとは?
スズメは立ち上がって、ナズナを見下ろす。
ナズナはスズメに殴られるのかと思ったのか、思わず腕で顔を隠した。
「…あの姫君は愛人なのか?」
みるみる血の気が引いて行ったスズメは、心よりも身体が勝手に動き出していた。
後ろから青年たちが叫んでいるがスズメの耳には入らなかった。



