色褪せて、着色して。~番外編~

「防犯のためにも、家の中は見ておいてください」
 バニラに言われ、スズメは返す言葉がなかった。
 貴族の家など自分ごときが入り込めば不敬罪になる。
 そればかりに囚われて。
 護衛係という任務を忘れてしまっていた。

 案内された室内は、貴族の人間が住むにしては狭いとスズメは感じた。
 外観通り、2階建ての一軒家で。
 リビング、ダイニングルーム、キッチン。
 客室。
 2階は寝室があるそうで、さすがに中は入れなかったが…。

 最後に通されたピアノのある部屋に、女神様はいた。
「改めまして。マヒルです。スカジオン王国出身で、訳あって今はここで暮らしています」
 スカジオン王国の王族だというマヒルは、あまりにも質素な服装をしている。
 スズメの認識では、貴族=宝石ギラギラドレスの人間だとばかりかと思っていたので。これまた、意外だと感じた。
 だが、質素なドレスでも、美しさは健在である。
「次は、挨拶回りですわ」
 バニラが笑顔で言い放ったので、スズメはなんのことだと首を傾げた。