色褪せて、着色して。~番外編~

 車の後部席に、スズメと中年の男性は座っている。
「あの、俺。上司を出迎えなきゃいけないので。手短にお願いします」
「うん。わかってる。私もこれから会議だから」
 だったら、早く行けよ…とスズメはイラッとした表情を浮かべて父親を見た。
 どうして、この男が父親なのだろう?

 すっかりと頭皮の薄くなった髪の毛。
 とはいえ、60歳近くになっても鍛えているのか。
 がっちりとした体型で制服が窮屈そうに見える。
 見た目からして、強いのはわかる。
 だが、息子のスズメを目の前にするとこの男は極端に気弱になる。
「おまえ…今の仕事に満足しているか?」

 ぴきっ…と頭の中の血管が切れるような…音が聞こえた。
 そればかりは…父親だとはいえ…いや、父親だからこそ言ってはいけない。
 スズメは睨みつけたつもりだが。
 父親は気づく様子はないようだ。
「…俺はどんな仕事でも真剣に取り組む姿勢でいます。失礼します」
 車を出て、すたすたと歩き出す。
 蹴り飛ばしてやれたら、どんなに良いだろうか。

 大人気ないとは、わかっている。
 この怒りをぶつけることは許されない。
 俺は、ずっとこの無限ループから。
 一生逃れられない。