色褪せて、着色して。~番外編~

 真面目に生きろ。
 正義感のある人になってほしい。

 母の教えはいつだって正しい。
 挫折なんてしてたまるものか。
 そうやって20年間、生きてきたつもりなのに。
 スズメは人生で初めて、挫折を経験したのは国家騎士として入団してすぐだった。

「行ってらっしゃいませ」
 翌日は、定例会議の為。
 上司たちを送り迎えする仕事がある。
 村で出会った女神のことは、一旦。置いておくしかない。

 城の前では、入団1~2年目の騎士たちが手持ち無沙汰で立っている。
 上司の送迎の仕事なんぞ、新人の仕事のはずなのに。
 スズメは一人、新人に混ざって立ち尽くしていた。
 城に入ることが許されるのは、上位の騎士たちだけ。
 会議が終わるまで、スズメは一旦置いておいた、女神のことを思い出そうとしていた。
 だが、「おい」という声に女神の顔は一瞬で消えた。

「おまえがいると、目が腐る」

 開口一番、スズメに悪口を投げかける男。
 スズメはうんざりしたが、頭を下げて「お疲れ様です」と大声で言う。
「いい加減、やめたらどうだ? クソ野郎」
 どんっと胸元を押され。
 スズメは大袈裟によろめいた…というより、よろめいてやった。
 男はスズメを見て満足したのか「よわっちー」と言って笑って城に吸い込まれていく。

「クソ野郎はおまえだろうが」

 ぼそっと言った。
 あんな人間ばかりが、肉体班の上位にうようよしていると知ったときには。
 吐き気でしかなかった。
 この国はどうして、あんな奴らで成り立っているのだろうと不思議に思う。
 はあ…とため息をついて前を見ると人が気配を消して立っていたので、「うぉ!」とスズメは声を漏らした。
「ちょっと時間をもらっていいかね」
 さっきのクソ野郎そっくりの顔で、中年の男性が言い放った。