色褪せて、着色して。~番外編~

 実家で飾られている女神の絵に、その人は似ていた。
「私は貴族といっても、ここでは一般人ですから」
 その人は、微笑んだ。
 もう無理だと思ったスズメは再びひっくり返った。

 女神の名前は、マヒルと言うのだそうだ。
 勿論、身分が高いので本名ではない、呼び名だ。
 この国では、身分の高い者は本名を明かしてはいけない決まりがある。

 女神の前でろくに話すことも出来ず、スズメは退散した。
 あんな美しい人を見たのは生まれて初めてだ。
 これまでの人生で一番美しいのは、母親だけだと思っていた。

 一週間は、トペニの教育係として行動してよいとマキ室長に言われていたが。スズメは普段の作業場である自分のデスクに飛んで行って。
 書庫の鍵を取り出して。すぐに調べた。
 あんな綺麗な人が住んでいるのなら、記録が残っているはずだ。
 経理として働くスズメが、あんな貴族の女性の存在を知らないこと自体おかしい。
 帳簿や記録の過去十年間を調べた。
 だが、載っていない。
「まさか・・・」